ふたつのさくら

「やるべきことは2つです。ひとつは昨日呼んだ、菖蒲に連絡すること。」

そう言って、携帯を取り出した。

「これ、授業中はカバンに入れてあります。1番大きいところ。これで、菖蒲に伝えてください。」

先生が頷いたのを確認して、話を続ける。

「もうひとつは、できるか微妙なところなんですけど……。」

言いながらカバンを漁る。

底の方から小さな救急セットを取り出した。

「これ、持っててください。」

今朝、菖蒲に渡されたものだ。

「なんだ?」

「睡眠薬です。かなり強いやつ。注射器に入ったものが3本入っている、って言ってました。」

見てないから知らないけど。

言った瞬間、先生の顔が引き攣る。

「静脈注射しないと危ないので、気絶してるときだけで大丈夫です。起きたときどうなってるか分からないので。」

まあ昨日は打ってても起きたんだけど……。

あれはノーカン。

すると、先生は引き攣った顔のまま、聞いてきた。

「俺、やったことないけど……。」

あ、そうか。

僕はジャケットを脱いで、ワイシャツを肘まで捲って腕を出した。

「ここにガーゼを当てて、水平になるように針を入れてください。中身を全部入れたら針を抜いて、多分シールが入ってるので、それを貼ってくれれば問題ないかと。」

菖蒲のことだから、中に説明書みたいなのは入れてると思うけど、でも一応ね。

入ってなかったら困るし。

「……養護教諭に頼むよ……。」

「んー、やってくれないと思いますよ?」

確か、静脈注射は医者の指示ないと、看護師でもできなかったはず。

養護教諭って、看護師に近いものだったはずだから……。

っていうことを岡崎先生に説明する。

先生はため息をついて話し出した。

「はぁ、お前なぁ……。そんなことを俺がやったら、俺の首が飛ぶだろ。ふざけんな。」

言葉ではこう言っているけど、怒っているわけじゃなさそうだ。

どっちかというと、呆れに近い。

「それに、」と先生は続けた。

「菖蒲さんも、まだ医者でも看護師でもないだろ。なにしてんだよお前ら……。」

それは、ほら。

「徒野なので。」

「なんでもありかよ……。」

すいません、なんでもありで……。