ふたつのさくら

「……そうか。」

先生はそう言って、1枚の紙を出してきた。

「それに、昨日お前が頼んできたことが書いてあんだけど、合ってるか?」

手に取って、内容を確認する。

カラコンの使用許可、授業を全部は受けれないこと、咲良さんとの距離を離すこと。

確かに全部書いてあった。

また頷く。

「昨日の放課後、各教科担任と学年主任、あとは生徒指導の先生だな、その人たちに頼んできた。」

「ぇ……?」

昨日、先生に言われたことはもっともだから、なにも言わないと思ってた。

僕の反応に、岡崎先生は少し笑って続けた。

「一応、全員に了承はもらったよ。まぁ、事情は詳しくは話してないから、渋々だけどな。」

……かなり無理してくれたんだろう。

特に現社の先生なんか、気難しいことで有名だから、相当いろいろ言われたと思う。

「……すいません……。」

頭を下げて、謝った。

頼んだのは僕だけど、やっぱり申し訳なかった。

「別に謝ることじゃねぇよ。俺も昨日、嫌なこと言っちゃったしな。悪かった。」

「いえ、そう思うのは当然なので……。」

頭を下げようとする先生を止めながら言う。

確かに辛かった。

いつも感じている苦しさとは、別の苦しさがあった。

でも、教師からしてみれば、そうしてくれた方がはるかに楽なのだ。

だって先生は、僕だけを特別扱いするわけにはいかないから。

「……まぁとにかく。これでひとまずは安心して登校できるか?」

僕は曖昧に頷いた。

安心ではある。

安心だけど、先生には言ったほうがいい。

菖蒲にも言われたし。

「……あの、僕、全力で耐えます。昨日みたいにはならないように、なんとかするつもりです。」

でも、絶対、なんてないから。

「最悪」を考えるのは、僕の十八番みたいなものだ。

「でも、万が一、僕が倒れたり、暴れたりしたときの対処、先生にお願いしたいです。」

そんなことを頼まれるなんて思っていなかったのか、岡崎先生は驚いたような顔をした。

でもすぐに、平静に戻って、聞いてきた。

「俺に、何かできるのか?」

「……正直な話をすると、僕に対しては、なにもできないと思います。」

菖蒲でも押さえるのがやっとだ。

ただの人間の手に負えることじゃない。

先生は落ち込んだように俯いてつぶやいた。

「できないのかよ……。」

「あくまで僕相手にだけです。」

先生はため息をついた。

すいません……。