ふたつのさくら

「……咲良さんの、腕、引っ張って……跡、つけた……。」

腕を見る。

もう跡は消えていて、痛みもほとんどなくなっていた。

それがどうかしたのか。

「……僕が、傷つけた……咲良さんに、僕が……」

朔羅はまた怯えたような顔になった。

菖蒲さんが、朔羅の話を聞いて、私にもわかりやすいようにまとめてくれた。

「つまり、お嬢が、他でもない自分のせいで痛い思いしたから、怖くなって、パニックになったと?」

朔羅は頷いた。

「え……?」

それでも訳がわからなかった。

今ののどこが怖いの?

「……朔羅、別にこのくらい平気だよ?」

朔羅に向かって言う。

けど朔羅は首を横に振った。

よかった、ちゃんと会話できる。

「……咲良さんが平気でも、僕が平気じゃないんです……。大事なのに、大事にしたいのに……。」

「……?」

「あー……悪いなお嬢。」

困惑する私を見た菖蒲さんがそう言った。

「今日の朔羅、ちょっと精神的にやられてて……。」

「精神的に……?」

なんかもう、わからないことだらけだ。

「あぁ。詳しくは話せないけど、嫌なこと、いろいろあったんだよ……。」

朔羅を立たせながら、菖蒲さんは言った。

私も立ち上がる。

「で多分、これからもこういうことは続く。だから、なんか朔羅の様子おかしいなー、って思ったら、落ち着くまで1人にしてあげて。」

「え?1人に、ですか……?」

そういうときはだいたい1人にしちゃダメなものだと思っていたけど……。

「そう。うちならまだしも、お嬢じゃ逆効果だ。余計パニックにさせるだけ。」

「そんな……」

朔羅は私を助けてくれるのに、私じゃ朔羅を助けられないの?

「……ま、いずれ、朔羅が全部話してくれるよ。今は無理だろうけど。」

菖蒲さんが優しい声で言った。

みんな、朔羅のことを知ってるのに、私だけなにも知らない。

分からない。

朔羅がなにを隠しているのかも、なんで隠しているのかも。

凍夜くんは、朔羅が私を嫌ってるからじゃないって言ってたけど、ここまでなにも言われないと心配になる。

「ねぇ朔羅。」

朔羅の前に立った。

少し、距離をとっている。

「なにを隠しているかは聞かない。けど、これは教えて?なんで隠してるの?」

そこが分からないと、朔羅に嫌われてるんじゃないかって、私が邪魔なんじゃないかって、不安になる。

「……」

朔羅は俯いて、なにも答えなかった。

「……私のことが嫌いだから?」

「違う!」

バッと顔をあげて言う。

でもまた俯いて、小さな声で続けた。

「……違います。僕が咲良さんを嫌うなんて、あり得ません……。」

「……じゃあなんで隠してるの?なにも言わないと分かんないよ……。」

わけもわからず涙が出てきた。

「もうずっと、朔羅がわかんない……」