ふたつのさくら

「朔羅。」

朔羅は呼びかけを無視して、速い速度で足を進める。

私は少し駆け足になりながらついていった。

掴まれてる腕が痛い。

「朔羅!」

少し大きめに声をかけると、朔羅はビクッとして足を止めた。

「朔羅、どうしたの?」

背中に尋ねる。

朔羅は下を向きながら答えた。

「……別に、どうもしてないですよ。」

……嘘だね。

「じゃあこの手はなに?」

「っ!」

朔羅が私の手を握ることはよくある。

でも腕を掴むことは、それも痛むほどに強く掴むことは、初めてだ。

聞いた瞬間、朔羅はハッとしたように振り向き、手を離す。

そして、私から距離をとるように、一歩後ろに下がった。

腕には、朔羅の手の跡がくっきりと残っていた。

「それ……。ごめんなさい……傷つけるつもりじゃ……。いやだ、僕のせい……」

朔羅はそう言いながら、一歩、また一歩と後ろに下がっていく。

顔は手で隠されてて見えないけど、その声は怯えたものだった。

「大丈夫だよ。」

朔羅を安心させようと、近づく。

しかし朔羅はそれを、さっきよりも大きく下がることで拒んだ。

「え?朔羅……?」

朔羅は怯えたように、何度も「ごめんなさい、僕のせいだ」って呟いていた。

朔羅の様子がおかしい。

もう一度、朔羅に近づく。

「っ?!」

朔羅はまた一歩下がろうとするけど、塀にぶつかって下がれなかった。

さらに怯えたような、いや絶望したような声になって、今度は「やめて、来ないで」と繰り返す。

そして塀に寄りかかったまま、座り込んでしまった。

朔羅の言葉を無視して、もう一歩近づく。

「朔羅、大丈夫だから。そんなに怖がらないで?」

声をかけながら朔羅の目の前に座って、手を伸ばした。

「っ!やめて!」

触れる直前、大声で言われ、手を引っ込めてしまった。

朔羅が引き攣った笑顔で続ける。

「あ、危ないから……僕は、危ない、ですから……だ、だめ、ですよ……?」

朔羅が危ないってなに?

そう、聞こうとしたとき、菖蒲さんがやって来て、朔羅の腕を掴む。

「、離せ!」

朔羅は咄嗟に振り払おうとするが、菖蒲さんの手はびくともしなかった。

「あの、菖蒲さん……。?!」

菖蒲さんはもう片方の手で、朔羅の顔の真横にある塀を殴った。

ガンッ、という大きな音がして、朔羅の動きが止まる。

菖蒲さんは静かに口を開いた。

「……朔羅、お前今、正気か?」

朔羅は黙って頷いた。

「じゃあなにがあったか話せるな?」

話せるか、じゃない。

話せるな、だ。

朔羅はゆっくりと話し出した。