ふたつのさくら

実験自体はなんの問題もなく進行する。

滴定の結果を書いて、使った器具を片付けて、白衣を脱いで、また椅子に座った。

「それじゃ次はその結果から酢酸のpH求めるでねー。結果の紙、ちゃんと持ってくるだにー。」

おじいちゃん先生のそんな言葉で、1時間目の授業は終わった。

1人で教室に戻る。

ロッカーに白衣をしまって、自分の席に戻った。

えーと、次の授業は……古典だね。

古典は岡崎先生の授業だ。

最近は古文で、平家物語をやっている。

あの「祇園精舎の〜」ってやつ。

古典は、というか古文は、割と得意な教科だ。

家に古文で書かれた本がいっぱいあって、触れる機会が多かったから。

朔羅も同じ理由で、古典の成績は特にいい。

まぁ、朔羅は大体の成績いいんだけど。

古文の教科書と単語帳を出して、机に突っ伏した。

あー朔羅いないと楽しくない!

朔羅のいない学校は、もちろん初めてじゃない。

むしろ朔羅は、他の人に比べたら、よく休むほうだと思う。

だからって、この状況に慣れるかっていうと、そんなわけないじゃない!

こういう時にすごく実感する。

誰も、「私」を見ていない。

みんな、私のことを「渡貫咲良」として見ているんだって。

疲れるんだよね、そういうの。

明るくて、誰にでも平等で、完璧な「渡貫咲良」って、すごい疲れるんだよ。

でも朔羅はそうじゃないから好き。

朔羅だけは私をただの「咲良」として見てくれるから、一緒にいて楽だし、楽しい。

あーだめ!

切り替えてこ。

私は起き上がって、机から小説を取り出した。

しおりを外し、読み始める。

5分ほど経っただろうか、2時間目の開始のチャイムがなった。

あ、やば。

全然時間見てなかった。

慌てて本を閉じて、机の中にしまう。

ふぅ、まだ先生来てないし、セーフセーフ!

そのまま席に着いて、先生が来るのを待った。