ふたつのさくら

それから凍夜に謝らせて、先生を慰めて……ってやって、15分後、ようやく客間にやってきた。

そんな時間ないのに……。

一度客間を出て台所へ向かう。

そこには母親が立っていた。

長い髪をひとつに束ね、エプロン姿で昼食を作っている。

「あら、おかえり、朔羅。」

「ただいま。ごめん、今日昼ごはんいらない。」

言いながらお茶と茶菓子を取り出して、お盆に乗せる。

きっと食べている時間なんてないだろう。

「分かったわ。お客さん?」

「そうだよ。しばらく客間使うね。」

それだけ言って台所をあとにした。

客間に戻ると、岡崎先生が落ち着かない様子で正座していた。

「先生、楽にしてもらっていいですよ。」

「いや、なんか畳って慣れなくて……。」

まあ、今どきそんなに無いか。

「そうですか。」

先生の前に座り、持ってきたものを机に置く。

「じゃあ早速、話していきましょうか。」

僕の雰囲気が変わったのが分かったのだろう、先生の顔が引き締まる。

人間、誰しも2つ以上の顔を持っているだろう。

さっきまでの僕は学生としての僕。

そして今の僕は、徒野家当主としての僕だ。

「単刀直入に言います。岡崎さんの姪御様は、妖怪に取り込まれていると思われます。魂が妖怪に乗っ取られている感じですね。」

先生が不思議そうに首を傾げる。

構わず説明を続けた。

「食べられている、とは少し違うので、なんとかする方法はあります。ですが、2週間とのことだったので、もう手遅れの可能性もあります。」

先生の目が驚きに見開かれ、ポツリとつぶやいた。

「手遅れ……」

「はい。」

僕の義務として、あらゆる可能性を全て言わなければならない。

医者と同じだ。

成功する可能性も、失敗する可能性も同様に話して、納得してもらわないと行動はできない。