ふたつのさくら

朔羅はソファに腰掛けて、手首を強く握っていた。

跡が残るくらい強く。

呼吸は割と正常。

だけど、今にも持っていかれそうなんだろう。

「朔羅。」

声をかけると顔を上げて、こっちを向いた。

今にも泣きそうな顔をしていた。

「これ、いる?」

短刀を見せながら聞く。

朔羅の顔が絶望に染まり、何かを言おうとするように口を開いたが、結局何も言わずに下を向いた。

怖いんだろう。

一度頼ったら、もうそれがないと落ち着けなくなる。

それが分かってるから躊躇ってるんだ。

そんな朔羅の前に屈んで、無理矢理顔を覗き込んだ。

「……うちは、別に楽な方に逃げてもいいと思うよ。これだって、そのために持ってきてるんでしょ?」

朔羅の顔から表情がなくなった。

そして無言で短刀を俺からひったくって、手のひらを薄く切った。

そう、それでいい。

俺がいるときにやるなら、なにも問題ないから。

絶対、あのときみたいにはならないから、安心していいんだぞ。

ポケットからハンカチを取り出し、朔羅の手のひらに乗せて膝で押さえる。

柔らかい場所だから、沈み込んでしまって、体重をかけにくかった。

止血しながら朔羅の頭を撫でる。

「それ、返して。」

これ以上持たせておくと何するか分からないから、短刀を回収した。

朔羅は短刀を渡したあと、疲れたのか、座ったまま寝てしまった。

しばらくは大丈夫だろう。

あー、でもこっから15分くらい動けないな……。

ま、いいか。

「先生ー!」

膝で傷を押さえた状態で、外に向かって声をかける。

すぐに静かに扉が開き、岡崎先生が入ってきた。

「もう、大丈夫……って、何してるんですか?」

そりゃそうだよね。

「止血してます。あと15分くらい、このままで失礼しますね。」

「はぁ……」

なんか、もう何言われても動じないって感じだな。

だけど岡崎先生は入り口で困ったように右往左往していた。

ちょっとおもろい。

でもかわいそうだから、言うか。

「もう、近づいてもらって大丈夫ですよ。椅子持ってきて、こっちで話しましょうか。」

「あ、はい……。」

先生は椅子をひとつ持ってきて、そこに座る。

朔羅の荷物は受け取って、短刀をしまった。