ふたつのさくら

「開いたぞ。」

「つ、わ……菖蒲、って、ひと……」

苦しさを耐えながら伝える。

聞き取りづらかったのか、先生は顔を顰めていたが、そんなことには気づけなかった。

やばい。

頭痛くなってきた。

しばらくして、声が聞こえてきた。

どうやらスピーカーにしてくれたようだ。

『よー朔羅。どうした?』

明るい菖蒲の声に、少し安心する。

僕が答える前に、先生が答えた。

「担任の岡崎です。菖蒲さんで、お間違いないですか?」

『……そうですけど、朔羅は?』

菖蒲の声が低くなる。

僕じゃないからだ。

「……いるよ……」

声を絞り出す。

すると、菖蒲の「あちゃー」って声が聞こえてきた。

いろいろ分かったのだろう。

「だめ、だった……むかえ……」

まだ8時でよかった。

菖蒲は大学のためにいつも、8時半に家を出る。

だからこの時間なら、迎えにきてもらえる。

『おっけ。先生、今そいつどこにいます?』

先生に聞いたのは、僕がまともに話せないからだろう。

後のことは菖蒲に任せれば大丈夫。

「学校の相談室です。一階東側、テニスコートの目の前にあります。」

『分かりました。15分もしたらいけると思います。』

菖蒲の声を聞いたら、さっきよりは少しマシになった。

でもまだ、自力で動けるほどの気力はない。

菖蒲が先生に指示を飛ばしているのが聞こえる。

それに混じって、ガサガサという音も聞こえてきた。

先生はそれに従って、窓を開けたり、質問に答えたりしていた。

あいつ、今着替えてるだろ。

だらしないやつ。

先生と菖蒲の話が途切れたところで、僕は菖蒲に声をかけた。

「菖蒲……」

『なに?』

優しく聞いてくる。

これ聞いたら怒られるよなー。

でもなー、ちょっとほんとに辛いから許して。

「……薬、飲んで、いい……?」

先生が驚いたように声を上げた。

「薬?!徒野、危ないものじゃないだろうな?」

何言ってんのこの人。

前話したじゃん。

先生は言いながらまた近づこうとする。

だから来るなって。

それを止めたのは菖蒲だった。

『先生、朔羅に近寄らないでください。死にますよ?』

「っ!」

まるで見えているような口ぶりだった。

窓の方を見ると、菖蒲が笑顔で手を振っていた。

思ったよりも早かったな。

相当急いできたのか、隠しているようだったが、肩が上下していた。