ふたつのさくら

教室にはまだ咲良さんたちはいなかった。

よかった。

先に来たのにあとから入るなんて不自然すぎるからね。

簡単に荷物を整理してから、教室を出た。

向かうのは職員室。

「失礼します。」

扉を開けて中に入り、早足に先生のところへ向かった。

先生は机に向かって眠そうにパソコンをいじっていたが、僕が来たことに気づくとそれを閉じた。

「徒野、おはよう。どうかしたか?」

明るく声をかけてくる。

「おはようございます、岡崎先生。今、お時間大丈夫でしょうか?」

対して、僕の声は自分でも分かるほど覇気がなかった。

そんな様子に、岡崎先生は心配したような顔になる。

「おい大丈夫か?朝からそんな疲れたような声出して。」

僕の質問には答えず、逆に聞いてきた。

大丈夫か大丈夫じゃないかだったら、絶対に大丈夫じゃない。

もちろん隠すことはできる。

でもこの人には正直に話してもいいだろう。

ほとんど知ってるんだし。

「……大丈夫じゃないので、どこか別の場所で話せませんか?」

僕は小声でそう言った。

ただならぬ気配を感じたのだろう、先生は焦ったように立ち上がって言った。

「分かった。相談室でいいか?」

「人がいないところならどこでも。」

職員室を出て、相談室に向かう。

途中、何人もの人とすれ違った。

外を通る、咲良さんの姿も、見つけてしまった。

心臓が跳ねる。

部屋に入り、扉を閉めたところで、僕は倒れそうになって壁に手をついた。

ヤバい。

今日、ほんとにやばい。

「徒野?!」

部屋の奥でカーテンを閉めていた先生が近づこうとする。

「っ!来ないでください!」

今来られたら、襲う自信がある。

先生は驚いて足を止めた。

「……どうしたんだ?」

先生の呟くような質問に答える余裕はなかった。

壁に手をついたまま座り、荒い呼吸を繰り返す。

ミスった……。

今日は、来ちゃだめだった……。

無理矢理体を動かして、背中を預ける体制に変え、ポケットから携帯を取り出す。

自分で操作しようと思ったけど、手が震えて、うまく操作できなかった。

「……せんせ、」

声をかけて、携帯を滑らせる。

「なんだ?」

焦った声だった。

こんなになってる僕を見たのが初めてだからだろう。

先生が拾ったのを確認して、声を出した。

「ロック……0、さん……に、8……」

「開ければいいのか?」

頷いた。

それだけで精一杯だ。