ふたつのさくら

言いながら教室の扉を開ける。

中には何人かの生徒がまだ残っていて、咲良さんは本を読んでいた。

僕に気づいて声を出そうとしたので、口元で人差し指を立ててそれを制した。

『かしこまりました。今から向かいます。』

「お願いします。」

そう言って電話を切る。

そしてもう一度電話をかけた。

今度は本家近くに居を構える分家の跡取り、化野菖蒲。

僕の兄さんみたいな人だ。

相手はすぐに出た。

『どうした?』

「菖蒲、すぐに今から送る住所に向かって。やることは行けば分かる。」

『……了解。』

これでとりあえずはなんとかなるだろう。

携帯をしまうとすぐに咲良さんに声をかけられた。

「何かあった?」

「すいません、咲良さん。僕、急用が入っちゃってすぐに帰らないといけないんです。奏美くんが迎えに来てくれるので彼と帰ってください。」

悲しげな顔をするが、彼女も僕の立場はよく分かっているので黙って頷いた。

「ありがとうございます。」

「そのかわり!」

咲良さんは恥ずかしそうに俯いて続けた。

「……今日の埋め合わせ。今度、暇なときでいいから、町の外に連れてって?」

その様子がかわいくてかわいくて……。

はぁもう、天使すぎる!

僕は思わず咲良さんを抱きしめて言った。

「分かりました。迎えに行くまで、いい子で待っててくださいね?」

頷いたのを確認してから離れる。

「それじゃ、咲良さん。また明日。」

「うん、またね。」

僕は急いで教室を出た。

下駄箱に向かうと、すでに岡崎先生が辛そうな顔で待っていた。

「お待たせしました。行きましょうか。」

「……あぁ。」

僕の声も少しばかり緊張していた。