ふたつのさくら

この世界には、人が暮らす世界と、人ならざるものが暮らす世界がある。

今から1000年以上昔、まだ日本の中心が京都だった平安時代。

人の世界と人ならざるもの……妖怪と呼ばれる存在が暮らす世界は2つに分たれていた。

人の世界が昼のときは、妖怪の世界は夜。

人の世界が夜のときは、妖怪の世界は昼、と言った具合に。

互いに干渉することなく、交わることもなく。

絶妙な均衡の中で、そうやって、世界はうまく回っていた。

しかしある時、2つの世界を隔てる境界に小さな穴が見つかった。

それ自体は大きな問題ではなかった。

だって、人に妖怪を見ることはできないのだから。

妖怪が人を見ることはできるだろうけど、相互的な関係を築くことはできない。

だけど、大きな問題でもあった。

確かに人は妖怪を見ることができない。

でもそれは、人の世界にいるときは、の話だ。

……1人の男が、境界の穴を通って妖怪の世界に落ちてしまった。

どうやら向こうの世界に行くと、人でも妖怪を見ることができるらしい。

見るだけでなく、触れることも。

男はその世界で、1人の女を見つけた。

夫である妖怪を亡くした、哀れな女の妖怪。

男と女は、その世界で愛し合った。

愛し合ってしまったのだ。

人も妖怪も、子ができる原理は同じ。

男女の双子だった。

半人半妖の、人にも妖怪にもなりきれない、可哀想な双子。

双子は3歳ごろまで妖怪の世界で暮らした。

妖怪たちは中途半端な双子を歓迎して、共に暮らした。

双子が4歳になる年の秋、母親である妖怪の女が殺された。

母は狐の妖怪。

森に入り、鳥や魚、キノコなどの栄養のある食べ物をとりに行った帰り、矢に貫かれて死んでしまった。