王太子に婚約破棄された地味令嬢ですが、病める時も健やかなる時も騎士団長から愛されるなんて聞いていません!

「団長! おかえりなさいませ!」
 一斉に整列し、馬車の迎えをする騎士たちの姿にセリーナは目を見開いた。
「団長? 小公爵ではなく?」
「昨日ドイル公爵から小公爵だと騎士たちに紹介されたが、セリーナを守る実力があるのか試したんだ」
 全員倒したら騎士団長にされたとスティーブンは肩をすくめながら、セリーナを馬車から抱え上げた。
 小公爵が騎士団長って絶対おかしいでしょ!
 それよりも屋敷に入る時まで抱えられているこの状況もおかしすぎるでしょ!
 ニコニコ温かい眼差しで見守ってくれている騎士のみなさんの視線がツラい。
 憧れの眼差しでうっとりしている侍女たちの視線がツラい。
 ホクホク笑顔の家令の視線がツラいです。
「スティーブン様、あの、自分で歩けますので」
「酷くなるといけない」
「ほんのちょっと赤いだけですから」
 過保護すぎます!
 訴えむなしく、結局抱えられたまま階段を上り部屋まで。
 さらに侍女が持ってきた傷薬まで塗ってくれるスティーブンの至れり尽くせりに、セリーナはなかなか慣れることができなかった。

    ◇ 
 
 ドイル公爵邸に来てからもうすぐ2週間。
 セリーナの右手の薬指には左右にエメラルド添えた美しいダイヤモンドの指輪が輝いていた。
 気にしないようにしているのに、つい視界に入りニヤけてしまう。
 侍女たちに温かい目で見られるのも恥ずかしい。
 先日、父からエリオット殿下が領地を訪ねてきたが、もちろん追い返したという手紙が届いた。
 レイド国の貴族たちからはダイヤモンドについての問い合わせの手紙が多く寄せられているそうだ。婚約破棄された娘を心配する者はほとんどおらず、やはりあの国を出てよかったと手紙には綴られていた。
 セリーナはドイル公爵邸にあるカヤ国の本を読みながらゆっくりと過ごし、スティーブンは騎士たちと訓練をして過ごす。
 何時に何をしてもいいなんて贅沢な時間の使い方は初めてだったが、侍女たちと話したり庭を散策するだけで、時間はあっという間に過ぎてしまった。