王太子に婚約破棄された地味令嬢ですが、病める時も健やかなる時も騎士団長から愛されるなんて聞いていません!

「どうしてカヤ国の領土になるのですか?」
「食料を一番譲ってくれたのはカヤ国だったんだ。カヤ国も干ばつ被害に遭ったのにね」
 当時カヤ王家は「食べられないダイヤモンドよりも食料だ」と貴族からも国民からも非難されながらも、人道支援だと反対を押し切って支援することを決めてくれた。
 そのため当時の契約書にカヤ国の調印も含まれているそうだ。

「スティーブン様がドイル公爵の養子と言うのは……?」
「俺の母はカヤ国のドイル公爵家出身なんだ」
 現在のドイル公爵はスティーブンの伯父。
 伯父には跡継ぎがいないため、養子にしたいと数年前から声をかけられていたが、まだセリーナの側にいたいとずっと断っていたのだとスティーブンはセリーナに説明してくれた。
 書類はもうスティーブンのサインだけの状態だったと。
 
「お茶会から帰ってきたのは昨日の午後二時くらいのはずですが、そこからすべて手配されたのですか?」
 カヤ国の領地になること、ドイル公爵の養子になること、ドイル小公爵となったスティーブンとカヤ国のダンヴィル公爵令嬢セリーナの婚約をカヤ国の国王に認められるまで?
 早すぎない?
「大事な娘のためなら、このくらい当然だ」
「愛するセリーナを守るためなら、なんでもする」
 昨日私が婚約を承諾した後、父とスティーブンは話し合い方針を決めたそうだ。
 スティーブンは夜通し馬を走らせて今朝ここに戻ってきたと。
「我々はカヤ国の貴族だ。レント国から何か言われても聞く必要はない」
 できるだけ早く領地に入ろうと言われたセリーナは、わかりましたと頷いた。

    ◇
 
 領地に無事着いたセリーナは休む間もなく、すぐにカヤ国王都のドイル公爵邸に向かうことになった。
 父たちは領地に滞在し、セリーナだけスティーブンと王都だ。
 けれど……。
「その緑のネックレスを。あぁ、それも似合いそうだ」
「待ってください。買いすぎですっ」
 王都の装飾品店でスティーブンのエメラルドグリーンの目と似た色のネックレス、イヤリング、ブレスレットを贈られたセリーナは、困惑した。
 てっきりレント国に見つからないようにドイル公爵邸に身を隠すのだと思っていたのに。
「髪飾りもくれ」
「こちらはいかがでしょう? 社交界で流行中の……」
「いや、次の流行はセリーナが作る。もっと繊細なデザインのものを見せてくれ」
 サラッととんでもないことを言いませんでした?
 恥ずかしいんですけど!
「スティーブン様、地味な私にそんなに……」
 素敵な装飾品はもったいないと言おうとしたセリーナの頬がスティーブンに捕まる。
「セリーナは美しい」
 スティーブンの手がセリーナの髪に触れ、バレッタでまとめていた髪が解かれる。
「髪はおろしている方が好きだ」
 店員に差し出されたエメラルドの髪留めを耳の上に付けながらスティーブンに囁かれたセリーナの頬は真っ赤に染まった。