王太子に婚約破棄された地味令嬢ですが、病める時も健やかなる時も騎士団長から愛されるなんて聞いていません!

 王妃様も第一王子のセドリック殿下も私たちに好意的だった。
 そのおかげか貴族たちの反発も思ったより少なく、僅かな反対派も騎士団長がスティーブンにたった5秒で負けたことや、私が共通語以外に8ヶ国語を話せると知り、誰も文句を言わなくなった。
 国民に絵姿を通達すると国はお祭りモードに。
 公務も少しずつ始まり、日々は慌ただしく過ぎていった。
 
「……美しすぎて誰にも見せたくない」
 これは困ったと額を押さえるスティーブンの冗談に、セリーナの緊張はいっきにほぐれた。
「スティーブン様も素敵です」
 今日は他国を招いた夜会。カヤ国の王太子であるスティーブンがお披露目される日だ。
 今日のスティーブンの装いは、白の礼服。たくましい身体つきがよくわかる。
 金の装飾は控え目にしてほしいと頼んでいたが、それでもかなり豪華な衣装になっていた。
 そしてセリーナの衣装は、スティーブンとペアだとわかる白と金の豪華なアシンメトリードレス。
 ネックレス、イヤリング、ブレスレットはもちろんスティーブンの眼の色のエメラルド。
 指にはダイヤモンドとエメラルドの婚約指輪、そして下した髪には指輪と一緒に頼んでいた小さなダイヤモンドが50個ほど繋がれた髪飾り。
 地味なドレスしか着てこなかった私が白と金のドレスを着る日が来るなんて想像したこともなかった。
「髪は上げた方が良いのでは?」
「下ろしている方が好きだ」
「装飾品が多すぎでは……?」
「控え目だ」
「お化粧も薄い方が……」
「化粧をしなくても美しさは変わらないが……」
 そんなに気になるのならばとスティーブンはセリーナの口を塞ぐ。
 自分の唇に移った口紅を野性的に手で拭いながら「薄くなったか?」と笑った。
 真っ赤な顔を落ち着かせる時間もないまま、侍従に会場まで案内される。
 国内の貴族だけで行われた夜会で一度経験しているはずなのに、セリーナの心臓はバクバクと飛び出しそうだった。
 スティーブンにエスコートされながら入場し、最上級の礼をする。
 国王陛下に王太子だと紹介されたスティーブンと階段を下りたセリーナは、みんなに注目される中、ファーストダンスを踊った。
 ダンスの練習は出来る限りしたけれど、各国の来賓の前で二人きりで踊るのはやはり緊張する。
 でもスティーブンの緑の眼は大丈夫だと俺に任せておけと言ってくれているようで、セリーナはスティーブンから目を離すことができなかった。
 
「……あれがセリーナ? 嘘だろ……?」
 見つめ合いながら楽しそうに踊る二人を見たエリオットは、セリーナの美しさに目を見開いた。
 セリーナはもっと地味で根暗で、お洒落にも興味がなくて不愛想で。
 あんなふうに笑った顔なんてずっと見ていない。
 それにカヤ国の王太子が騎士団長のことだったとは。
 あいつに「セリーナの護衛ご苦労だった」と伝え、セリーナに「側妃にしてやる」と言ってやろう。