王太子に婚約破棄された地味令嬢ですが、病める時も健やかなる時も騎士団長から愛されるなんて聞いていません!

 国王命令ですぐにドイル公爵邸から王宮に引越し、王宮内に部屋を賜ることになったセリーナは焦った。
「どうしてベッドがひとつなのでしょうか……?」
「セリーナがここで。俺はリビングのソファーで」
「それはダメです! スティーブン様がベッドで」
「では一緒に」
 ぽふっとベッドに押し倒されたセリーナは真っ赤な顔で狼狽える。
「すまない、バカ王太子から守りたかっただけなのに、まさか俺がカヤ国の王太子に任命されるとは……」
 祖父が前国王の弟だったと説明されたセリーナは、スティーブンが王太子になった理由がようやくわかった。
 カヤ国王とドイル公爵とスティーブンの母が『いとこ』で、スティーブンとセドリック王子は『はとこ』。
 子供ができにくい家系なのか、カヤ国王に兄弟はいない。そしてカヤ国王の子供も高齢でようやく授かったセドリック王子だけ。
 18歳になるまで王太子にはなれないため、セドリック王子はあと10年なることができない。
 だからカヤ国に帰ってきたスティーブンが王太子になったのだ。
「セリーナの語学が堪能で驚いた」
「私はスティーブン様があんなにお強いとは知らず、驚きました」
 綺麗なエメラルドグリーンの眼から目が離せない。
「また王太子妃にさせてすまない。自由を奪ってすまない」
 気軽に街へ行き、好きなものを自由に食べ、やりたいことを好きなだけさせたかったとスティーブンは目を伏せた。
「好きだ、セリーナ」
 触れるだけの口づけのあと、吐息がセリーナの唇をくすぐる。
「愛している。ずっと側にいさせてくれ」
 答える間もなく、息ができない程の熱い口づけが降り注ぐ。
「王太子妃はイヤだと、俺から逃げないでくれ」
 絶望しかなかったあの茶会から救い、いつでも私のことを気遣い、守ってくれる人。
 きっとあの日助けてくれなかったら、私はまだ立ち直れず泣きながら過ごしていただろう。
「私も……お慕いしております」
 セリーナが恥ずかしそうに笑うと、スティーブンは緑の眼を細めながら愛おしそうに微笑んだ。

    ◇

 カヤ国から届いた招待状をテーブルに叩きつけながらエリオットは奥歯をギリッと鳴らした。
 招待状にはカヤ国の王太子のお披露目並びに婚約発表会だと記載されていた。
 問題は王太子妃の名前だ。
 なぜここにセリーナの名前が書かれているのか。
「俺への当てつけかよ」
 婚約破棄したと父に告げたら、セリーナにすぐ謝罪しろと怒られた。
 破棄を取り消せなければ廃嫡だと。
 あんな地味な女をなぜ庇うのか。
 納得がいかないまま、わざわざダンヴィル邸に行ってやったのに、婚約破棄がショックだったのか一家で領地へ帰ったあと。
 仕方なく領地まで行ってやったのに門前払いだった。
「地味女のくせにカヤ国の王太子と婚約だと?」
 領地に帰るくらい婚約破棄がショックだったなら、側妃くらいにはしてやってもいい。アンジェラは文字が読めないから、セリーナが書類処理をやればいいんだとせっかく閃いたのに。
「くっそ、絶対邪魔してやる」
 急に現れた王太子なんてどうせジジイだろ?
 俺の側妃になった方が良いに決まっている。
 とりあえずアンジェラのドレスを新調して、装飾品も買わなくては。
 父には絶対にアンジェラを連れて行ってはいけないと言われたが。
「セリーナは俺のことが好きだから側妃にしてやると言えば喜ぶはずだ。美しいアンジェラを連れていき、おまえは地味だから側妃だと言えば納得するだろう」
 エリオットは侍従を呼びつけると、日程を告げドレスの手配を頼んだ。