王太子に婚約破棄された地味令嬢ですが、病める時も健やかなる時も騎士団長から愛されるなんて聞いていません!

「陛下。甥のスティーブンと、婚約者のセリーナ・ダンヴィル公爵令嬢です」
「二人とも見たことがあるな。それに、随分と雰囲気が違う」
 はははと気さくに笑う国王陛下にスティーブンとセリーナは最上級の礼を行った。
 今日はドイル公爵と一緒にカヤ国の王宮へやってきた。
 カヤ国の国王にお会いしたのは夜会で一度だけ。
 会話もしていないのに覚えていてくださったなんて。
「スティーブンはレイド国の騎士団長だったな。どのくらい強いのか見たい」
 国王がスッと手を上げると木刀が運ばれてくる。
 スティーブンは苦笑しながら上着を脱ぐと木刀を受け取った。
 ドイル公爵に部屋の隅へ誘導されたセリーナは、体格の良い対戦相手の姿に不安になる。
「大丈夫」
 ドイル公爵の言葉にセリーナは祈るような気持ちで頷いた。
 はじめの合図と共に動き出した二人。
 決着まではわずか5秒。
 折れた木刀が床に転がり、結果はスティーブンの圧勝だった。
 嘘でしょ、こんなに強いの?
「ははは。うちの騎士団長では相手にならぬか」
 王宮の騎士団長を倒したの!?
 一瞬すぎる出来事にセリーナは震える。
「ほら、大丈夫だっただろう?」
 三人の甥っ子の中でスティーブンを指名していたのは三男だからではなく、あの子が欲しかったからだとドイル公爵は笑った。
 木刀を返し、上着を羽織ったスティーブンは息が乱れることもなく、何事もなかったかのような雰囲気でセリーナを元の場所までエスコートする。
「セリーナは語学が堪能だと聞いている。少し彼と会話をしてくれないか? 思ったことを何でも発言してくれ」
 国王の合図で入ってきた貴族男性は会釈をするとセリーナに話し始めた。
「この国に来られたのは初めてですか?」
「はい。二週間ほど前にはじめて訪れました」
 まずは共通語。
『この国の印象はどうですか?』
『活気がある街を夢中で歩きすぎて、スティーブン様に心配をかけてしまいました』
『今年は枝豆が取れすぎて廃棄しているのですが何か解決策は無いでしょうか?』
『キョクトー国では枝豆をもっと育て、大豆というものにすると書物で読みました。加工方法もありそうでした』
 コヨーチ語、メア語、イべンセ語、ミーグ語で会話が続いていく。
『もし8歳の第一王子の家庭教師をしてほしいと言われたらどうしますか?』
『ドイル公爵と相談し、可能な限りご期待に添えるように致します』
 王太子妃教育の時、最も苦労したルメラヤキ語で質問されたセリーナは笑顔で答えた。