スイーツ王子は甘くない⁉

 コンコンコンとノックをしてから扉を小さく開ける。

「失礼します。あの、クロくん、これ……」


 クロくんは、一瞬だけわたしの方を見ると、さっと視線を目の前のチョコレートへと戻した。


「今忙しい。なんの用だ」

「け、ケーキを作ったので、もしよかったら、クロくんにも食べてみてほしくて。あと、来週からチョコレートの特訓をお願いしたいんですけど……」

「そのへんに置いて、さっさと出ていってくれ。作業のジャマだ」

「ご、ごめんなさい……!」

 入り口のすぐそばにあった台の上にお皿を置き、素早く扉を閉めようとしたとき——。


「待て」

 クロくんの声がして、途中で手を止める。


「月曜の放課後。いつもの実習室」

「はいっ、わかりました!」

「……声がデカい」

 わたしが元気よく答えると、ため息とともにクロくんのうんざりしたような声が聞こえる。


「し、失礼しました」

 扉を閉めると、はぁ~~と大きく息を吐く。


 やっぱり怒られちゃった。

 あれっ。でもケーキ、『持って帰れ』って言われなかった。

 これって、受け取ってくれたってことだよね?

 ふふっ。よかったぁ。


 あのときのことを聞けるような雰囲気ではなかったけど、特訓のときに、少しくらいおしゃべりできるかもしれないし。

 そうだよね。まだまだこれから先、いつだって聞けるんだから。

 今日は、ケーキを受け取ってもらえたことを喜んでおこう。

 それに、月曜からの特訓のお願いもできたんだから、これで十分だよ。


 思わずスキップしたくなるのを必死に堪え、わたしはみんなの待つ実習室へと戻っていった。