スイーツ王子は甘くない⁉

「あのっ」

 わたしがガタッと立ち上がると、みんなの視線が集まる。

「わたし、クロくんに届けてくる」

「うん、いってらっしゃい。クロは、五階の501号室にいると思うよ」

「わかった。ありがとう!」

 シロくんにぺこっと頭を下げると、残っていたケーキを別のお皿に乗せ、実習室を出た。


 う~……やっぱりドキドキする。

 人違いだったらどうしよう。

 でも、声が似てた気がするんだよね。

 こんなことなら、ちゃんと顔を見ておくべきだったよ……。


 五階まで階段を上がると、501号室のドア窓からそっと中を覗き込む。


 わたしがいつも使っている実習室とは異なり、狭い室内には広い調理台がひとつだけ。

 壁際には冷蔵庫やオーブンなども置かれていて、製菓に必要なものは一通り揃っているみたい。


 そして、その広い調理台の前には、白のコックコートに黒のエプロン姿の男子が一人。

 クロくんだ!

 大理石の台の上にドロドロに溶けたチョコレートを出し、ナイフのようなもので広げたり集めたりを繰り返し、黙々と作業をしている。


 あれ、テレビで見たことある!

 冷たい大理石の上で、チョコレートを冷やしているんだよね。

 うわぁ、カッコいい……。


 しばらく続けたあと、作業が一段落したのか、クロくんがチョコレートをボウルの中へと戻す。

 声を掛けるなら今だ!