スイーツ王子は甘くない⁉

 手近なイスに腰かけると、エンくんがなんだか言いにくそうに口を開く。

「あとは焼き上がりを待つだけなわけだけど……ごめんな。今回のクッキーは、失敗だ」

「えぇっ⁉ だって、まだ焼けてないよね? なのに、なんでわかるの⁇」

「まあ、あーやると、こーなるってことで、覚えといてほしくて、あえて止めなかった。まあ、誰でも一回は通る道だから」

「どこが悪かったの?」


 わかってたのなら、やってるときに教えてくれればよかったのに。

 失敗だってわかってて教えてくれないなんて、すっごいイジワルだよ。


「わわっ、ごめんて。泣くなよ」

「な、泣いてなんか……」

 と言ってるそばから、涙が一粒零れ落ちる。


「誰だってたっっっっくさん失敗くらいするもんだって。あのクロでもな。失敗しては、立ち止まっていろいろ考えるんだ。次はこうしてみよう、ああしてみようって。そんで、うまくいったときは『よっしゃー!』ってめいっぱい喜ぶ。だから菓子作りはやめられない」

 そう語るエンくんの瞳がキラキラして見える。


 そっか。そうだよね。

 一回の失敗で、こんなに凹んでどうするの。

 失敗から学んで、次に生かせばいいんだよ。


「うん……わかった」

 ぐいっと涙を拭うと、エンくんに向かってニコッと笑って見せる。

 そんなわたしにニカッと笑い返すと、エンくんはパンッと膝を叩いて立ち上がった。


「よしっ。そろそろいいニオイしてきたし、オーブンの様子を見てみようか」

「うん!」

 元気よく返事をして、わたしも立ち上がろうとしたそのとき——。