スイーツ王子は甘くない⁉

「そういうときは——悪い、ちょっと触るぞ。こうやって、ボウルのはしっこのとこでトントンってしてみ」

 わたしのうしろに立ったエンくんが、泡立て器を握るわたしの手を上からぎゅっと握って、実演して見せてくれる。


 ドキドキドキドキ……。


「う、うん。わかった。ありがとう」

 思わず裏返りそうになる声を必死に堪えてそう言うと、泡立て器でさらに混ぜていく。


 エンくんは、なにも知らないわたしに丁寧に教えてくれているだけなんだから。

 こんなふうにドキドキしてる場合じゃない。

 集中、集中!


「うん、だいぶよさげだな。そしたら次に、常温に戻した溶き卵を少しずつ加えて、その都度よく混ぜる。バニラエッセンスも加えたら、またよくかき混ぜて。——だんだんコツを掴んできたみたいだな、心愛」

「えへへっ、ありがとう」

 エンくんの言葉に、思わず口元がほころぶ。


「最後に、ふるっておいた薄力粉を入れて、ゴムベラで粉っぽさがなくなるまで切るようにして混ぜ合わせる。——あー……」

 粉が見えなくなるようにと念入りに混ぜていたら、突然エンくんが声をあげ、わたしは手を止めた。


「な、なに?」

「いや、ごめん。とりあえず、続けて」

 なにか言いたげなエンくんが気になったけど、『続けて』と言われてしまったので、そのまま作業を続行する。


「できました!」


 バッチリ粉っぽさはなくなったよ。