俺様御曹司は欲しい

マスターに向かって容赦なく飛び後ろ回し蹴りをするサーバントはきっとあたしぐらいしかいないだろうと自信を持って言える。

「そんなんが俺に通用するって本気で思ってんなら鍛え直せよ?ザコすぎ~、お話になりませーん」

ポケットに両手を突っ込んでヘラヘラしながら軽くあたしの回し蹴りを躱した九条。バケモンでしょ、こいつの反射神経。

「いつにも増して鬱陶しいのは一体なんなんでしょうか?」

「あ?いや、別に、普通だろ」

一瞬、ほんの一瞬だけど動揺した九条をこのあたしが見逃すはずもない。もう何ヶ月こいつと嫌でも一緒にいると思ってんのよ。雨の日も風邪の日もどんな時だってサーバントとして九条に尽力してきたつもり(無理やり)。

あの九条が動揺するなんて相当なことがあったはず。良くも悪くもこの男は人の心を溝に捨ててる系だし、圧倒的自信からか焦るとか動揺するってことが基本的にはない。

心底憎たらしい男だって思うけど、それでも一応あたしの彼氏である。“一応”なんて九条に言った暁には何をされるか分かったもんじゃないから気をつけないとマジで命取りになる。

「ねえ、九条」

「んだよ」

「あんたさ、おかしくない?」

「あ?」

「あたしに隠し事できると思ってるなら、そのおめでたい脳ミソ取り替えてっ」

「おい、お前マジで啼かすぞ」