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アイツは、姫野は良い意味でも悪い意味でもS専関係者に興味を示すことはなかった。ましてや年下のガキなんざ尚更だ。氷室達のことも『へぇー、そうなんだー、すごいねー』くらいにしか思っていたなかったはずだ。まぁ氷室達の実力は認めざるを得ないもので、その辺は信用も信頼もしていただろう。だが興味を持つかどうかは別の話だ。そんな姫野が白浜には興味を示した、大切にしたい守り抜きたいと願っていた。

そんな姫野にしてやれることは、白浜を腐らせないことくらいだろ。姫野はこの業界から去って、婚約者と幸せに暮らせばいい。俺はこの時、そんくらいにしか思っていたなかった。

あの日、いつも通りくだらない話をし合っていた。これはもう癖みたいなもんで、互いの生存確認をする為だけの連絡みたいな、ただそれだけの電話だったはずだった──。

「あ、私の結婚の話なしになったから」

「は?いや、どういうことっ」

「こんな体でしょ~?子供もできないし、彼の人生を奪うわけにもいかないわ。もういいのよ、本当に~」

「オマエっ」

「これ白浜ちゃんには絶対言わないで、絶対よ。私に何かあったとしても絶対に言わないで」

俺は全てを悟った、悟った上で止めることはしなかった。生きるも終わらせるも姫野が決めることで、俺にそんな権限はない。生きることが辛いと思ってる奴に生きろ、幸せになれ、幸せになれる……そんな無責任なこと言えるはずもねえ。どのみち俺が止めたとしても、姫野はもう止まらん。俺にこの連絡をしてきた時点で手遅れだったんだ。これは俺の過ちでしかねえ。だから俺は──。

「姫野」

「ん?」

「俺に託してぇことはあるか」

「白浜ちゃん、あの子は本当に優しいから……だからお願い、あの子を死なせないで」