君を思うと、胸がぎゅっと痛くて

ーーまた今年も桜が降る。

目が覚めてまた1年後の春。

約束の場所にはシロツメクサが咲き乱れて、蝶々が舞ってる。

そこには車椅子の29歳の”わたし”が座ってる。

「この間やっと目が覚めたと思ったら、もう29歳って……ふぅ」

でも、ここは変わらない。
春の匂いは変わらない。

「ねぇ、あきもそう思うでしょう?」

「あぁ、だな。さゆは思ったより老けたな」

「あき、ひどーい!!」

「ほら、お腹冷えるから毛布ちゃんとかけて」

私の薬指には結婚指輪があって、このお腹には新しい命が宿っている。
ーーもちろん、あきと私の。

「おぉーい! さゆぅー!!! あき先生!!!」

「陽菜!! 走るな」

「ははー天才研究者、奏教授さまー」

「いや、ほんと奏くんは凄いよ。29で教授とか」

「そうだよ、陽菜とさゆの薬だって作ってくれたし! さすが私のイケメン旦那様♡♡♡」

「おーい、2人とも惚気けすぎでしょ」

「さゆ達も相思相愛のくせに」

「はる兄だけ独り身で可哀想」

「ハハ、僕には薬があってもまだ目が離せない妹がいるからな」

「俺たち、だろ?」

「ですね、あき先生(笑)」

たくさんのシロツメクサに白い蝶々は1匹だけになってしまったけれど、今日も私たちはこうして、この世界を選んで生きてる。


「ねえ、いい天気だね!」


「あぁ、最高の気分だ」


「陽菜、みんなで写真撮りたい!」


「良いね」


「じゃあ僕がシャッター押すよ」


「はる兄、ありがとう」


空に暖かな、風が吹いた。


【はい、ピース】


世界は今日も痛みに満ちているけれど、君を想えば生きていける。

だってここに春があるから。

春は続いていくから。

君へと続く、この胸の痛みとともに。

私達は何度でも生き直せる。

【君を思うと、胸がぎゅっと痛くて・~完~】