裏社会の私と表社会の貴方との境界線

時間がない。
もっと早く足を動かさなきゃ…!!
るあは心臓病による発作を抑えながら、自分に出せるいちばんの速度で走った。
普段は走っちゃいけないけど、どうせ死なないし今は走っていくべきだ。
途中でタクシーを捕まえて目的の病院の名前を伝えた。
るあの様子を見て、急いでいくと運転手が言ってくれた。
緊急事態だと察したのだろう。
『るあ姉は、メアに変わってきて。そうすれば、メアとしての能力を扱える』
琉叶はそう私に言った。
それがるあたちがかけた提案。
『そんなの無理だよ!だって、メアになったら記憶がなくなっちゃうんだよ?その状態で来るなんて…』
“メア”というのはるあの第二の体。
るあが眠りについた時、メアとして別の場所で目覚める。
そして、メアが眠っている間はるあとして生活ができる。
メアはるあと同じ病院入院している。
号室だってもちろん知っている。
ただ、メアの時の記憶はるあにはないから。
メアを唯一知ることができるのは、彼女が毎日書いている日記だった。
今でもメアのるあと全く同じ筆跡の字が鮮明に浮かび上がってくる。
『やっぱり、お父さんもお母さんも私に関心がないみたい。
いらない子だって面と向かって言われちゃった。
兄弟がいたらなにか変わったのかな?
わかんないや。
誰か、この寂しさを埋めて。』
『今日も学校でいじめられた。
もう行くのが嫌になる。
私はなんのために学校に行ってるんだろう。
もう、全部わかんない。
誰も理解してくれない。』
『やっぱり、私は呪いの子なんだ。
こんな変な能力いらない。
これがなかったら、みんな私を好きになってくれたのかな?
もう耐えられない。
いっそのこと死んでしまいたい。』
メアはおそらく、るあたちと同じ真聖家の血が混じっている。
その影響で、無意識に神と契約を結んでしまっているんだ。
メアと契約をしている神は、黄泉神ナンバー3の酒呑童子(しゅてんどうじ)
平安時代に名を()せた最強の鬼の頭領(とうりょう)で、強い力を持つ悪霊だ。
その酒呑童子と契約していることによって、メアの周りには霊が集まりメアに()いてきてしまう。
ただ、逆にそれはメアにとって利点ともなりうる能力だ。
メアにはもうひとり契約している神がいて、黄泉神ナンバー6エクストリームという。
エクスの能力は“ドール”。
カラクリ人形に自分の“なにか”を入れることで動き出す。
憑依させるのはどんなものでもいい。
例えば、自分の感情なんかもできる。
そして、メアの場合は自分に憑いてきた悪霊をドールに憑依させ扱うことができる。
ドールの人格は悪霊そのものだが、ドールがメアを裏切ることはない。
使い方がしっかりしていれば、最強の能力とも言えるだろう。
だから琉叶は能力の使えない“琉愛”ではなく“メア”になれと言ったのだ。
そして、力を貸してくれると言う確信もあった。
それはるあがメアの唯一の理解者であること。
メアのことは一方的に知っている。
なぜなら、「黒良泉緒(くろらみお)」という名で彼女と交換日記をしていたから。
もちろんそんな名前の人は病院には存在しない。
だから、メアが泉緒をるあだと思うことはない。
るあは泉緒としてメアの話を親身に聞いて、自分のことも打ち明けている。
自分の病気のことも、メアと同じように能力を持つ子だということも、乃亜兄のことも、琉叶のことも。
さらに、るあとメアはお互いに依存状態にあった。
なくてはならない存在。
だから、メアはるあを助けてくれる。
そして交換日記を取り出し、いつものように丁寧に文字を書いていった。