裏社会の私と表社会の貴方との境界線

飲み物をとりに来て1階に降りると、珍しく華恋が落ち込んだ様子で座っていた。


しばらく見ていたが、ため息ばかり。


華恋は普段から感情を見せるタイプじゃないし、よほどのことがあったのだろう。


例えば、真白となにかあったとか。


華恋が真白のことを好きなのは見ていればわかる。


本人は自覚ないみたいけど。


それがまた僕をイラつかせる。


「華恋、どうしたの?」


気がついたら、そう声をかけていた。


「いえ、えっと…特に……」


誤魔化そうとしているのが丸わかりだった。


そんなに僕と関わりたくないっていうのか。


そんなことを考えながら、僕は華恋の隣に座った。


「なに。僕に言えないこと?」


少し不機嫌気味に言ってしまった。


すると、華恋は驚いた表情をしながら言った。


「いえ…。別に言えないこととかではないのだけれど、ツキにとってはきっとどうでもいいことだと思うから」


「どうでもよくないって言ったら?」


「え…?」


どうしてこんなにも必死になっているのか、自分でもよくわからなかった。


でも、このチャンスを逃しちゃいけないって、そう心が言ってる気がした。


「ていうか、それは僕が決めることだし。とりあえず話せばいいじゃん」


長い沈黙の後、華恋がぽつりと言った。


「ツキは…変わったわね。この学園に来てから」


まあ、気づかれてるよな。


これ以上隠す理由も無くなった僕は、華恋に言った。


「華恋に近づけると思って変わったんだよ」


「え?私?」


「僕さ、こんな感じで誤解されがちだけどみんなのことちゃんと好きなんだ。みんなといれる時間が好きだし、仲良くしたいって思う。でも、もし拒絶されたらって思うと怖くて…」


本心なんだ。


僕は兄妹とは違うってよく言われたから。


こんな僕が言葉を発しても、みんなに迷惑なんじゃないかって思ってしまう。


——拒絶されたくない。


本当は怖いだけなんだ、臆病(おくびょう)なだけ。


「特に華恋は特別。いつもこんな僕だけど一緒にいてくれるし、話も聞いてくれる」


そう、僕にとって華恋は特別だった。


まるで僕の全てを知っているとでもいうような態度。


そんなところに()かれたのかもしれない。


でも、華恋が好きなのは僕じゃない。


そう思うと、どす黒い感情があふれてきた。


——華恋は俺のものだ。


「っ…!んぅ…!?」


いつの間にか唇を重ねていた。


まるで八つ当たりのようなキス。


顔を赤く染める華恋の姿に、さらに理性をゆらがされる。


「僕、知ってるよ。前に華恋がサクとキスしてたの」


「…!?どうして…」


「たまたま見ちゃっただけだけど。でも、普段からしてるんでしょ?」


サクが華恋に異様に執着しているのは知っていた。


でも、まさか華恋も受け入れてるなんて。


そう思っていつも見ていたから鮮明(せんめい)に覚えている。


「してる…けど。別にサクが好きだからとかじゃないわ。向こうも恋愛感情なんてないでしょうしね」


イラっときた。


華恋はそういうところは鈍感だよね。


本気でそう思ってる?


僕は大きなため息をついていた。


「はぁ…。ほんと、わってないよね。華恋は鈍感(どんかん)


「そ、そんなことないわよ…」


「だから、そういうところが鈍感って言ってるんだよ。サクは華恋の優しさにつけ込んで仲を深めようとしてるし、ユウは周りの女と同じ態度に見せかけて近くにいるようにしてるし、ユキは華恋と1番仲良いからって兄弟に牽制(けんせい)してるし…」


早口でそう言った。


まるで怒りをぶつけるように。


だって嫌だったんだ。


ずっとずっと、華恋があいつらからの好意に気がつかずに接してるのも。


僕は華恋を失わないように抱きしめた。


でも、同時に黒い感情もあふれてくる。


「いつ取られんのかってヒヤヒヤしてんの分かってよ…。俺のことも少しは意識して」


また唇を重ねる。


今度は俺の意思。


華恋ごと喰うようなそんなキス。


「真白が好きなんだろ」


その言葉に返事はなかった。


気持ちも曖昧なまま僕達は溺れた。