裏社会の私と表社会の貴方との境界線

まず懐に入り込んだのは鈴鹿御前だった。
鈴鹿御前の最大の武器である大通蓮(だいとうれん)(さや)から抜いた。
気がついた頃には、すでにリオが後ろへ下がっていた。
その後ヒュン!!と大きな音が鳴り、横に立っていた木が倒れた。
私は目を見開いた。
「外しましたね」
鈴鹿御前の左手には1メートルほどある剣が握られていた。
自分で呼び出したドールであり、契約上私には絶対に手を出せない。
わかっていても恐ろしくなる。
「問題ねぇ!」
そう答えた悪路王は火をまとった矢を放った。
その矢はリオの左腕をかすった。
あんなに熱そうで鋭そうなのが当たったのだ。
きっと辛いはず。
「悪路王、一矢では足らぬ」
「わかってんだよ」
悪路王は続けて矢を飛ばそうとする。
それに追い打ちをかけるように、鈴鹿御前が真っ直ぐに突っ込んでいった。
またかすった。
これでもジワジワと体力が削られているはずだ。
このままいけばきっと勝てる…!
そう思った。
だけど——。
「ふふっ、はははっ…」
リオは笑っていた。
こんな状況で、訳がわからない。
なにが面白いの?
その疑問を私の代わりに酒呑童子が投げかけた。
「なぜ笑う?貴様はなにもわかっておらぬのか。今、どんな状況下に立っているのか」
「いや、わかってるよ?黄泉神のトップ組である3人に、僕がまともに対処できるはずもないってね」
「なら、なぜ笑うのじゃ」
「面白いからに決まってるじゃないか」
不敵に微笑むリオに、私が硬直する他なかった。
だってこの人、狂ってる…!
悪路王も顔をしかめた。
「面白いってなにがだよ。テメェはここで無様に死ぬかもしれねぇんだぞ?」
「ああ、そのスリルが面白いんじゃないか」
ピリッとした空気が流れた。
誰もがリオの脅威を認めたのだ。
「僕とまともに戦えるのは華恋くらいだったんだよね。でも、当の本人は戦うのは嫌いって言ってくるし。仕掛けても難なくかわされてさぁ。退屈だったんだよね、人生。そんな時、こんな大きな事件が起こっちゃった。それで僕が思いついたんだ。これでサク兄側につけば、華恋と戦えるってね…!」
その表情は、嬉しさに歪んでいた。
華恋…ってたしか、琉愛ちゃんのお姉さんの名前だ。
どういうこと…?
琉愛ちゃんのお姉さんと、どうして戦いたいの?
「どうしてって思ってるでしょ?」
不意にリオに指差されて、私はドキッとした。
それから、リオはありえないことを言った。
「僕は華恋を愛してるんだ。女でありながら誰よりも強く、美しく戦ってみせる。だからこそ、僕なんか釣り合わない。華恋は僕を見てくれない。だったら…殺すしかないよね?」
「えっ…?」
この場にいた全員が、リオに言葉に息を呑んだ。
だって、殺すしかないって…。
「殺せば華恋は永遠に僕のものになる。ね?最高の考えでしょ?だから…僕は華恋のところに行かなきゃいけない」
その回答に飛び肌が立った。
この人は、絶対に華恋ちゃんのところに行かせちゃいけない。
そう直感で思った。
ここで食い止めなきゃ…!!
「酒呑童子、悪路王、鈴鹿御前!ここでこの人を止めて!!」
「わかっておるわ」
「ああ、こいつはやべーな」
「はい。ここで成敗いたします」
私の言葉に、3人が一斉にと飛びかかる。
だけどリオは何故かもうそこに立っておらず、次の瞬間私の視界は暗転した。
——えっ?
目に入ったのは腕に刺さっている小さな針と、リオの不気味な笑顔だった。