イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


「この前、お前は私に自分の好きなものを聞いたな」


 確かに、聞いた。けれど、答えられなかった事も覚えている。


「確かに、知らない。お前のことは、あまり知らない。だが……お前が赤ん坊の頃初めて食べた桃を大層気に入って食べていたところは、今でも覚えている」

「……」


 ……それは、聞いたことがなかった。けれど、私って小さい頃から、初めて食べた時からずっと桃が好きだったんだ……知らなかった。

 持っていきなさい、と出された紙袋の中には……箱が入っていた。そして、ふたに書かれていたのは……桃。これを、持っていけと?

 何となく、高級感のありそうな箱のように見えるんだけど。

 どうしたものかと思っていると、再婚相手の彼女が口を開いた。


「実は私の実家は農家でね、この桃は実家のものなの。正弘さんもお気に入りだから、瑠奈さんも気に入ってくれると嬉しいわ」


 さ、持ってって。そう言いつつ私の手を握って半ば強引に紙袋を渡してきた。

 というか、この人のお気に入りなんだ……


「恋人さんと一緒に食べてね」

「……ありがとうございます」


 ……うん、ほんわかしてる人だ。隣の彼は……相変わらず眉間にしわを寄せているけれど、黙ったまま。いや、言いたげではあっても口はつぐんでいる、か。さては、この人に何か言われたな?


「……結婚式ぐらいは、呼びますよ。バージンロードは嫌ですけど」

「っ!?」

「あらっ!」


 つい、口走ってしまった。結婚式、なんて言葉がまさか私の口から出てくるとは思わなかった。


「けど、条件。確かお子さんいましたよね。今年から、絶対に運動会の親子競技は全部あなたが参加してください」

「っ……!?」

「ぷっ、ふふっ……」

「……穂花」


 なるほど、さすが再婚相手の妻だ。母が以前愚痴っていたけれど、この人は極度の運動音痴。まぁ仕事があって私の学生時代では運動会なんて参加したことがなかったが。

 本当なのかは知らなかったけれど、顔を強張らせていたから本当らしいし……まぁ、せいぜい笑いものにでもなってしまえ。