イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


 大学が休みの土曜日。とあるカフェに来ていた。店内に見覚えのある〝方達〟を見つけ席に近づいた。


「瑠奈」


 やっぱり、この人も来るよね。そう思いつつも、席に辿り着くと手に持っていた紙袋を二人の目の前に置いた。


「……まずは座りなさい」

「私の席はここじゃないんでいいです。で、これ余ったのでお返しします」


 いつも通りスーツ姿の元父親は、紙袋を覗くと……目を見張り私を凝視した。なんてものを持ってきているんだ、とでも言いたげではある。後から紙袋を覗いた再婚相手の女性も、焦りつつも私に視線を向けている。

 この中に入っているのは、積み重なっている札束の入った袋。よく見るものだから見れば一発で分かるだろう。残りの借金を一括でお支払いした時の残りを銀行で下ろして持ってきた。

 ちょっと、いや、色々と怖かったので矢野警視に同行してもらい、今はこの席と少し離れたところでコーヒーを楽しんでもらっている。

 とりあえず、近くに銀行があるカフェを選んだから、たぶん、大丈夫。


「あぁ、もうあの口座は解約しましたから。あとは……この前の話って私を貴方の戸籍に入れる話ですか? そういうの必要ないですし、もう引っ越すことにしたので問題ありませんよ」

「……」

「手続きして母親の戸籍から抜けましたし。だから……もう心配とかいりませんので気にしないでください」


 元父親であるこの人が嫌い、というわけではない。母親の顔色ばかりを窺ってきたから、その原因となった父親の存在はもうどうしようもないと思っていた。諦めていた。

 だから、そういうのはいらない。もう自分は大人になった。なら、自分で生きていける。

 けれど、どうしてだろう。元父親の彼の顔が、後悔の色を見せていたのは。


「……大人に、なったな」

「言ったでしょ、ハタチだって。私は私でやっていけるんで、お元気で」

「待った」


 早くここから去りたかったのに、彼はとある紙袋を出してきた。……私の真似か? と思ったけれど、違った。