イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


 そう、思っていた時だった。前髪が避けられ、額に柔らかい感触がある。これは、以前にも感じたことがある。……おでこに、キス、された?

 それを理解すると、一気に顔の熱が上がってしまった。


「熱いな、熱がぶり返したか?」


 頬に添えられた大きな手に反応してしまう。でも、ニヤニヤと顔を覗いてくるから理由はもう分かりきってしまっている。いじわるされてる……?


「まぁ、そんな反応されたらもう分かりきっているんだが……言葉が欲しい、というのは欲張りか?」

「……」

「ダメか?」


 もう片方の頬も添えられてしまった。けれど、その微笑は、ずるい。

 キャリア組らしいエリート警視に、親戚が警視監。そんな人の本物の恋人だなんて……荷が重すぎる。というか、私で大丈夫かとまで思ってしまう。けれど……手を差し出されてしまえば、その大きな手を握るしか選択肢はない。


「……その……」

「うん」

「……えぇと……その、ですね……そういうこと、と言いますか……」


 何と言えばいいのか困ってしまう。それに、顔が火照ってしまい自分の口で言えるだろうか、というところもある。そういうこと、とはなんぞや。ちゃんと言え。

 けれど、湊さんは見抜いてしまっているかのようにクスクス笑ってくるから、言えない……恥ずかしすぎて……

 その時だった。スマホの鳴る音が聞こえてきた。

 それは私のスマホだったらしく、湊さんが取ってくれて受け取ると……画面を見て、顔が引きつった。


「どうした」

「……」


 メッセージが送られていた。その相手は……佐藤、穂花さん。元父親の、再婚相手。

 また、会って話がしたい……だなんて、絶対に元父親が来るって分かりきってる。これは、無視するべきだろうか。けれど……無視したらまた来るに決まってる。

 そう思えば、私は湊さんに向かって正座をして姿勢を正した。


「あの、その……矢野警視。頼みごとを聞いてもらえませんか……?」

「……矢野警視?」


 その瞬間に、ヒヤッとしたものを感じた。笑顔ではあるけれど……目が、笑っていない。


「……こ、こっ恋人、特権で……!」


 危機感を感じてしまい、恋人特権を付け足した。さっきのような危ない空気は消えたけれど、今更ながらに恥ずかしい……

 彼は考える仕草をした後、足を組んで頬杖を付き笑いながらこちらを見てきた。


「しょうがないな。何でも言っていいぞ」


 ……何でも、ですか。恋人、と言ってしまったからなんだろうけれど……それ、言っていいの……?

 たぶん、私が〝矢野警視〟と言ったのだから大体の予測はついたかもしれない。

 そして、お休みの日を聞くところから始まった。あとは、私の通帳の確認も忘れずに。