イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


 火照って熱を帯びてしまった顔に手をパタパタと仰ぎ冷ましながら、二階にある私の部屋に足を進めた。

 どうしたらいいかな。と、悩みつつも階段を一段一段上がっていたけれど、結局私に勇気がないだけだという答えに辿り着きため息を吐いてしまった。

 まずは、帰ってお風呂に入って一旦頭をリセットしないと。そう思い、玄関前で鍵を開け、入った。

 そして、廊下の電気を付けた。


「……?」


 ふと、気が付いた。どうして、匂いが違うんだろう。家の匂いって、そんなに変わるもの? だって、母はこんな匂いのする香水は使っていないはずだから。

 それに、玄関に靴もない。

 いや、まさか。

 少しだけ、怖くなった。部屋に続く扉を、開けるのが怖かった。

 さっきまで熱かった顔が、今はすでに冷めてしまっていた。

 けれど、さっき私は鍵を開けて部屋に入った。ちゃんと鍵はかかっていた。ゴミとか、そういうものから出た匂いなんじゃないだろうか。そう自分に言い聞かせてから靴を脱ぎ、ゆっくりとした足取りで進み、ドアに手をかけた。

 そして、ゆっくりとドアを開いた。震える手で、電気をつけると……


「おかえりなさい、瑠奈ちゃん」


 人が、そこに立っていた。おかえりなさいと、私に言ってきた。

 どうして……どうして……


 ――佐々木先輩が、私の家にいるの?


 つい数時間前、アルバイト先のカフェに来ていた先輩が。

 私の家を知っていた……?

 合鍵を持っていた……?

 そんな疑問が脳内に飛び交い、言葉が出てこない。

 そんな私に近寄り、私を見下ろす佐々木先輩は、私に微笑みこう言った。


「遅かったね。もしかして、バイトの後あの男とこんな時間まで遊んでいたのかな」

「ぇ……」

「まだあの男と付き合ってたんだね。でも、もうそろそろ、僕のところに帰ってきてほしいな」


 佐々木先輩から出てきた言葉は、理解出来なかった。

 僕のところに、帰ってきてほしい。

 さも、私の居場所は、自分のところだと言っているような発言。