けれど……手間取った?
「瑠奈、お前早瀬警視長に俺が言うまで自分は何もしないと言ったらしいな」
「っ……」
その言葉に、目を見張ってしまった。
一体、その話をどうして出してきたのだろうか。この後言われる言葉は、恐ろしいものなのではないだろうか。
「結婚相手は自分と見合ったやつの方がいい、って言われたんだろ」
「……」
「なるほど、それが原因か」
「ぅ……」
さすが、エリート警視さんだ……いや、これは関係ない?
「25歳の警視で? キャリアで? 叔父が警視監で? だから自分は見合わないって?」
「ぅ……」
改めてはっきり言われると、心が痛い……しかも、ご本人に。
声からして、刺々しいし……
「そんなもの、こっちからしたら大迷惑だ。他人にとやかく言われる筋合いは全くない」
全くない、にだいぶ力が入っている。それだけ迷惑がっているという事、よね……
「仕事ならまだいい。だが、プライベートに口出しされ指示されるのはたまったもんじゃないだろ。……はぁ、一体俺を何だと思ってるんだあのクソジジイ」
「……」
ク、クソジジイ……しかも、だいぶ呆れてるというか、怒ってるというか……
一体私はどんなリアクションをすればいいのやら。
「だから、俺が誰と付き合おうが誰と結婚しようが全く関係ないし知ったこっちゃない」
「……」
「お前のことも、これ以上文句は言わせない」
えっ……?
わ、私……?
気が付けば、車は停まっていた。私の住むアパートの駐車場に着いたらしい。早く逃げようと思ったけれど、シートベルトの金具を刺す部分、パックルが大きな手で押さえられてしまっていた。目の前には、彼の顔がある。
まるで、逃がさんぞとでも言いたげな顔だった。これは、逮捕された……?
「今まで、これだけ自分が警察官をやっていてよかったと思った事はない。警察官じゃなければ、あのナイフで殺されていたからな」
「……」
そうだ。私は、ナイフが出てくるなんて微塵も思っていなかった。もし、警察官じゃない湊さんに助けを求めていたら、今は救急車で病院まで連れていかれていたところだ。
彼が警察官だったから、今は何事もなくここにいる。
「だが、警察官にもかかわらず俺の勝手でずっと嘘を吐いていた。お前にも嘘を吐かさせていた。これでは警察官失格だ」
私達が吐いていた嘘。それは、私がアルバイトで恋人役を演じていた、という事。同僚さん達にも嘘を吐いていた。
「なら、嘘を本物にしてしまえば、吐いたことにはならない」
「えっ……」
「嘘だらけだったこの関係を、本物にしたい」
あのお見合いの日から始まった、3ヶ月間の嘘。これを、本物にしたい。それは、本物の恋人関係を築きたいという事。
そんな事をして、いいのだろうか。
「もっと、瑠奈の近くにいたい」
「……」
「もっと、独占したい。そして、俺が瑠奈を守りたい」
「……」
そう言ってくる、という事は……守る存在は、私だと、いう事でいいのだろうか。
期待してもいいのだろうか。でも、私を見るその目は、そうだと言っているように感じる。
「……どうして、ですか?」
「……」
「私達……3ヶ月ですよね。会って」
そう、出会ってから3ヶ月しか経ってない。会う頻度は多かったけれど、この人は私の事をよく知らないし、私も知らない事は沢山あるはずだ。
「……まだ気付かないのか」
「え?」
気付かない、とは……? 何か、見落としている事でもあっただろうか。
そう思っていると、ポケットからスマホを出し操作し出した。そして、画面を向けてくる。映っているのは、写真だろうか。男女二人が映っていて……その内の女性、いや、女子は私のよく知る人物だった。
「……真紀ちゃん?」
「俺の妹」
「……マジ?」
つい、そんな言葉が出てしまった。



