初めてその男子を目にした時から、何となく彼のことが気になり始めた。周りのクラスメートとどこか雰囲気が違う。大人びていて、落ち着いていて、気が付くと目で追うようになった。

名前は水沢正嗣(みずさわまさつぐ)。休み時間もお昼休みも誰とも話さない。今日のお昼休みもお弁当を食べ終えると、どこかへ本を持って行ってしまう。

私は勇気を出し、水沢くんがどこへ行くのか確かめることにした。教室を出て、水沢くんに気付かれないように少し離れたところからついて行く。

私たちの教室がある棟を出て、渡り廊下を歩いて左に進んでいく。職員室を通り過ぎてすぐ右にある階段を上ると、「図書室」と室名札のついたドアを水沢くんは開ける。

(図書室……)

前の学校で図書室に行ったことはあっただろうか。読書を私はこれまでほとんどしたことがない。夏休みの読書感想文が一番大嫌いな宿題なくらいだ。

でも、水沢くんはここにいる。私は図書室のドアを開けた。すると本棚に並べられた多くの本が目に映る。図書室には誰もいない。