いきたい僕ら

全てを気付かなかったことにして、言われた通りソファに座って待っていると、蒼さんがお茶を持って戻ってきた。

さっきよりも幾分かスッキリした顔をしている。

「お待たせ。えっと……律樹くん、で合ってる?」

「はい、合ってます。」

僕が返事をすると、すぐに部屋の中の空気が変わった。

今から真面目な話が始まるんだと、よくわかった。

「早速だけど、仕事の話だ。」

この前のふわふわした様子は一切ない。

少しもふざけている余裕がない、ということだ。

「明日、『イーグルサイト』の実験室に行くことになっていたよね?」

確かにそうなっている。

「はい。」

「それ、1人で行ってもらいたいんだ。」

いきなり言われたそれに、一瞬思考が止まった。

「え……?1人で、ですか?」

「うん。1人で。」

「……どうして急にそうなったんですか?」

理由もなくただ1人で行けじゃ、とても納得できない。

すると蒼さんは、小さくため息をつきながら答えた。

「はぁ……梨杜姉の言った通りだ。何も聞かずに、納得したりは……。」

「無理ですね。」

「……だよね。理由はもう1人の子、蓮斗くん、だっけ?彼を守るためだ。」

「レンを守る……?すいません、話が全く見えないんですけど……。」

「ひとつずつ、順番に説明するね。まず、『イーグルサイト』との最初の顔合わせで会った、『神威』という人物は覚えてる?」

蒼さんの問いかけに、僕は頷いて答えた。

「神威」は190を超えるほどの長身の人物で、顔はわからなかった。

声も男か女か判断できないような感じだった。

そして頭の回転が速く、敵に回すと厄介そうな相手だったと記憶している。

「そいつがどうかしたんですか?」

「これは僕たちの予想だから、本当は全く違うのかもしれないんだけど。」

蒼さんはそう前置きをして話し出した。

「『神威』の本名は『八神威織』。8ヶ月ほど前まで、清部会で働いていた暗器及び暗殺のプロだ。」

そう言って顔写真とプロフィールが載った履歴書のようなものを見せてくれた。

それにはこれまで、清部会で何をしてきたのかも事細かにまとめてあった。

清部会で働いていたって……。

「それって、まさか……!」

「そう、裏切り。君も知っての通り、清部会では、裏切り者やスパイ行為をした者は、例外なく処分される。何回もやってきただろう?」

僕は頷いた。