いきたい僕ら

……それから約1週間後、律樹が退院する日の前日に、俺はまた病室に来ていた。

律樹の怪我はもうほとんど治り、自由に動けている。

あとは律樹が心の傷とうまく向き合えるかどうかだ。

「律樹ー、律樹が行く施設って、どこ?」

俺は椅子に座って、ベッドに体を乗せながら、律樹に聞いた。

やっぱり律樹は施設行きになった。

親戚付き合いも大してなかったし、養子縁組もそう簡単に見つかるものじゃないからしょうがない。

「えーっとね……あ、あったあった。」

律樹は近くの引き出しから一冊のパンフレットを取り出して、俺に渡してきた。

それは律樹が行くことになっている孤児院のもので、表紙には建物のカラー写真が印刷されていた。

「へー、綺麗な建物だな。」

「うん。5年前に建てられたって言ってたかな?」

築5年か……。

ちょー新しいわけじゃないけど、古いわけでもないって感じだな。

パンフレットを開けば、施設の特徴や1日の様子などが細かく載っていた。

「この前挨拶に来てくれた職員さんも、優しそうだったよ。」

嬉しそうに、律樹は言う。

「そっか。」

1番最後のページを見ると、施設の住所が載っていた。

「ほーん、隣の県か……。ちょっと遠いな。」

行けないことはないけど、電車を乗り継いで3時間ってところか?

「なに?会いに来てくれるの?」

茶化したように律樹が聞いてくる。

俺は少し考えて答えた。

「行けたら行くわ。」

「うーわ、それ絶対来ないやつじゃん。」

そうして2人で笑った。

俺は律樹の頭に手を置いて、言い聞かせるように言った。

「でも、何かあったらすぐ行くから。いつでも呼べよ?」

定期的には無理だけど、もし律樹が大変な目に遭っているなら、すぐにでも行くつもりだ。

律樹は気まずそうに目を逸らして答えた。

「……僕、そんなに子供じゃないよ。」

……ははっ。

俺は律樹の頭を撫でた。

「律樹はまだまだ子供だよ。俺だけでもいいから、誰かに甘えな。」

こいつを甘やかしてやれるのは今はもう俺だけ。

施設の職員は忙しいだろうから、1人1人に構ってる時間はない。

今日は、いっぱい甘やかしてやろうと思ってここに来た。

だから甘えてもらわないと困る。

「むー……」

不貞腐れながらも、律樹は俺に抱きついてきた。

頭を撫でてやった。

「……律樹。」

「……なに?」

もうそろそろ面会時間が終わる。

言いたいことを言えるのは今しかないのだ。

「俺、明日は来れない。だから今、全部言うね。」

律樹を軽く抱きしめた。

「律樹、無理して笑わなくていいからな。辛い時は辛いって言っていいし、泣きたい時は泣いていい。万が一……死にたくなったら、俺を思い出して。助けに行くから。絶対。だから、絶対に1人で抱え込んじゃだめだよ?もし周りに敵しかいなくても、俺だけはずっと味方だから。わかった?」

律樹が俺を抱く力が強くなった。

まるで絶対に離さないとでも言うように。

「……わかった。」

「……いい子。」

また、頭を撫でた。

そのあとは面会時間が終わるまで、ひたすら律樹の頭を撫でていた。

家に帰るその瞬間まで、ずっと。

……次の日、律樹は退院して隣の県の施設に向かった。

それから俺が律樹と会うことは、2度となかった……。