いきたい僕ら

「……律樹?」

律樹は苦しげに息をしていた。

胸の辺りを押さえて、早いリズムで呼吸を繰り返す。

直感的に、過呼吸を起こしているんだとわかった。

「律樹!大丈夫だから!俺がいるから、な?だから大丈夫だからな!」

過呼吸の対処法なんて知らないし、なったこともないからどれだけ苦しいかもわからない。

そこでふと気づいた。

俺が騒いだらダメだ。

だからただ安心させるためだけに、抱きしめて静かに声をかけ続けた。

「大丈夫だから……何も心配いらないから。ほら、息吸える?」

返事をする余裕はないが、言葉は届いているようで、律樹は息を吸おうとした。

でも途中でむせてしまった。

「ゆっくりでいいよ。はい、今度は吐いて。」

途中何回も咽せながら、ゆっくりと何度も繰り返す。

「いい子だ。また吸って。」

次第に呼吸も落ち着き、正常に戻ったようだった。

「よしよし。よく頑張った。律樹はいい子だよ。」

律樹を抱きしめ、頭を撫でながら続けた。

「律樹、誰がなんと言おうと、律樹のせいじゃないから。自分を責めちゃだめだよ。実樹さんたちが悲しんじゃうから。わかった?」

律樹が頷いたのがわかった。

俺は体を離して、律樹の顔を見る。

悲しそうな顔をしていたけど、最初みたいに絶望した顔ではなかった。

「……朝陽は、いなくならない?僕を、おいていかないで、くれる……?」

目に涙を溜めて、律樹はそう言ってきた。

この小さな子供に、俺が言ってやれることはひとつだけだった。

「当たり前だ。俺はお前を1人にしない。大丈夫だからな。約束だ。」

笑って言えば、律樹は俺に抱きついてまた泣き出した。

嬉しそうな、安心したような、そんな泣き声だった。

「あぁもう、律樹はいつからこんなに泣き虫になっちゃったのかなぁ。」

頭を撫でてやった。

律樹が泣き止んで、肩から顔を離そうとしたとき、俺はそれを右手で抑えた。

「朝陽……?」

「なぁ律樹。俺の顔見ないで聞いて。」

今の俺の顔はきっとひどいことになってるから。

「俺さ、怖かったんだよ。律樹がいなくなるかもって思って。俺は律樹を1人にしないって約束する。だからさ、律樹も俺をおいて、1人で勝手に俺の手の届かない場所に行かないって、約束してくんない?」

本当に怖くて、心配で、怖くて……。

夜も眠れないし、食べ物も喉を通らない。

こんな辛い経験、もう2度としたくない。

だから保証が欲しかった。

自分の手で、律樹を守ってやれるっていう保証が。

……っていうのは多分建前。

親のいなくなった律樹は、きっと施設に送られる。

どんな施設かにもよるけど、そこでの生活は楽じゃないだろう。

何もかもが嫌になって、俺を置いて、先にいっちゃうかもしれない。

そんなことにならないために、俺は律樹を縛りつけようと思った。

俺のために、律樹が俺から逃げられないように……。

「……いいよ。」

左手で涙を拭った。

「約束する。どこにも、いかないよ。」

俺の目を見て、律樹が言った。

「ありがとな。」

俺も、笑って言った。

これが、「共依存」のなれ果てだ。