いきたい僕ら

バス停から歩いて20分ほど。

住宅街の中の、ひとつの家の前に僕らは立っていた。

「ここですか?」

「そうだよ。」

結局、アポ無しで来てしまった。

時刻はもう9時を過ぎようとしているから起きてはいると思うけど、さすがに無礼か。

「レン、ちょっとこっち。」

レンを呼んで近くの公園に向かう。

住宅街にある公園だというのに、遊んでる子供は1人もいなかった。

僕は休憩所の椅子に腰掛け、レンにも隣に座るように促した。

そこで携帯と、朝陽からの手紙を取り出した。

携帯の電源を入れ、キーパッドを開く。

恐ろしい数の着信は見なかったことにした。

書いてある番号を入力して、通話ボタンを押す。

「まだ持ってるんですかね?」

レンが聞いてきた。

「わかんない。けど……しー。」

僕がレンに向かってそうやると、電話の向こうから声が聞こえた。

『……もしもし?』

僕が知ってるままの人でよかった。

疲れた声をしているが、確かに華野さんの声だった。

『……あの、どちら様ですか?』

僕が答えないのを不審に思ったのか、少し怒ったような声になった。

『イタズラなら切りますよ。』

……それはちょっと、困る。

「……お久しぶりです。華野さん。」

電話の向こうで息を呑む音がした。

「こんなに遅くなってしまって、申し訳ありません。」

あぁ、だめだ。

「朝陽に、会いたくて……。」

僕には、泣く資格なんてないのに。

「会わせて、もらえませんか……?」

『律樹くん、今、どこにいるの?』

華野さんの声は、優しかった。

「……よく来てた、公園です。」

この公園は、僕が施設に入る前まで、朝陽に慰めてもらうために来てた場所だ。

幼稚園や学校でうまく馴染めなくて、泣きたくなったらここに来て、よく泣いていた。

何も連絡してないのに、朝陽は僕がここに来ると絶対にいた。

今思えば、いたんじゃなくて、いてくれたんだ。

多分僕がいつ来てもいいように、ずっとこの公園にいてくれたんだろう。

『迎えに行くわ。』

レンが頭を撫でてくれた。

朝陽じゃないのに、朝陽みたいで、すごく安心した。

「……いえ。僕が、行きます。いつまでも、甘えていられないので。」

『そう……気をつけていらっしゃい。』

「はい。」

通話を切る。

涙を拭って、立ち上がった。

「大丈夫ですか……?」

「……レン、戻るよ。」

レンの質問には答えず、そう言う。

ものの数分で、さっきの家の前までたどり着いた。

インターホンを押そうとして、できなかった。

この期に及んで、まだ怖かった。

電話口の華野さんの声は優しかった。

でも実際に会って、僕の話を聞いて、僕のせいで朝陽が死んだんだって知ったらどうか。

罵られる覚悟も、貶される覚悟もしてきたはずだった。

「……レン。」

後ろにいるレンの方は見ないで声をかける。

「はい。」

「レンは、僕は大丈夫だと思う?」

少し間を置いて、レンは答えた。

「……大丈夫ですよ。絶対に。俺が守るので。」

……律樹は、俺が守ってやる。

……そうだね、朝陽。

「……ありがとう、レン。」

僕はインターホンを押した。

すぐに玄関が開き、華野さんが飛び出してきた。

そして僕を強く抱きしめて、ものすごく優しい声でこう言った。