いきたい僕ら

……きっかり2時間、俺は待合室で過ごし、律樹さんの入院している部屋へ向かう。

ノックをすることもなく扉を開けた。

「律樹さん、戻りまし、た……?」

病室は扉を開けるとすぐ左側に洗面所があり、その奥に患者のベッドが置いてある。

入り口から入って少し進まないと、ベッドの様子は見えないのだ。

でも違和感があった。

扉を開けた瞬間に感じた酸っぱい匂い。

まるで何かを……胃液を吐き出したような、そんな匂いがした。

腕で口と鼻を押さえて洗面所の扉を開ける。

中には誰もいなかった。

が、匂いは強くなった。

「……」

あの人、吐いたな。

扉を閉めて、部屋の奥へと進む。

「律樹さん……?」

テレビはつけっぱなし、スリッパは置いてある、でもベッドは空だった。

「っ!」

悪い想像をして急いで窓に向かう。

窓は鍵までちゃんと閉まっていた。

そもそも人が出られるようにはなっていない。

換気のため窓を開けることはできるが、その外側にある網戸ははめ殺しになっていて、外すことができないのだ。

「はぁ……律樹さん、どこ……?」

待合室にいるとき、律樹さんは出てこなかった。

仮に俺が気付かなかったとしても、明らかに様子のおかしい、裸足の人が歩いていたら、誰かが気付くだろう。

だけどそんな様子もなかった。

下に来てないなら、上……?

「まずい……!」

その可能性に気付いたとき、俺はすでに走り出していた。

全力で階段を登り、屋上の扉の前までやってくる。

本当なら閉まっているはずの扉は、鍵が壊され、薄く開いていた。

思いっきり扉を開け、屋上に出る。

周囲を見回せば、律樹さんの姿を見ることができた。

「ばっ……律樹さん!あぶな……っ!!」

律樹さんは空へと足を踏み出した。

俺がフェンスを掴む音、鳥が羽ばたく音、葉っぱが擦れる音。

いろんな音が入り混じる中で、俺には確かに聞こえた。

固いもの同士がぶつかる音と、短い呻き声が。