いきたい僕ら

しばらく待っていると、達野さんが帰ってきた。

達野さんは華野さんの夫。

俺の父親……みたいな人だ。

「ただいま。」

達野さんは疲れた顔と声をしていた。

いつも以上に。

「あ、あなた。おかえり。」

「おかえり、達野さん。」

でも華野さんはやっぱりいつも通りだった。

その様子を見た達野さんは、1回深呼吸をしていつも通りの笑顔に戻った。

夕飯の配膳を済ませて、3人で食べる。

今日あった取るに足らない、どうでもいいことを話したり、仕事の愚痴を聞いたり。

そんな当たり前がそこにはあった。

そして、「当たり前」とは崩れるものだ。

何の前触れもなく、唐突に。

夕飯を食べ終わり、片付けも済んだころ。

俺は達野さんに呼ばれた。

「朝陽。ちょっとそこに座りなさい。」

言われた通り、椅子に座る。

机を挟んだ正面には達野さんと華野さんが暗い顔をして座っていた。

「どうしたの?」

俺の問いかけに、達野さんは重苦しい雰囲気で口を開いた。

「……朝陽、落ち着いて聞くんだよ。今日の朝、相火さん一家が交通事故に遭われてね、亡くなったそうだ。」

「……?」

最初、なんでそんなことを俺に言うのか分からなかった。

その相火さん?は気の毒だけど、俺には全く関係ないのにって。

でもそんな考えは、次の言葉でかき消された。

「律樹くんだけはなんとか生きているみたいだけど、怪我が酷くて入院しているらしい。」

「は……?」

頭を殴られたような衝撃だった。

そうだ。

律樹は、律樹の苗字は「相火」だ。

なんですぐに気づかなかったのか。

「だい、じょうぶなんだよね?律樹は、死なないよね?!ねえ!!」

気づいたら机に身を乗り出して聞いていた。

怪我がひどいってどれくらいなのか。

「一家」が亡くなったのに、律樹だけ都合よく無事だなんて考えられない。

達野さんが目を逸らして答える。

「……わからない。」

「っ……俺、律樹のとこ行く。」

とにかく安心したかった。

自分の目で、律樹が生きていることを確認して、それで安心したかった。

俺が財布を取りに部屋を出ようとすると、華野さんが腕をつかんだ。

「朝陽、今日はもう無理よ。行くなら明日、私と行きましょう?」

「でも……明日は、学校……」

このときはまだ、真面目に学校に行こうと思えていた。

それに、こうしているうちにも律樹が死んでしまうかもしれないという恐怖もあった。

「休んでいいから。明日、華野と行ってきなさい。」

達野さんだった。

病気でもない限り休ませてくれない達野さんが、そう言った。

「学校より、律樹くんのほうが大事なんだろう?」

「……わかった。」

明日、律樹のところに行く。

「ほら、今日はもう休みなさい。それで明日、元気な顔を律樹くんに見せてあげて。」

華野さんの言葉に頷いて、俺は部屋に戻った。

寝ようと思って布団に入るが、全く眠れる気配はない。

むしろ寝ようと思えば思うほど、律樹のことが心配になって頭は冴えていった。