いきたい僕ら

……その日は日曜日で、俺は学校の友達の家に遊びにいっていた。

友達っていっても、律樹ほど心を許していたわけじゃない。

所詮は学校で孤立しないためだけに作った、上部だけの友達だった。

午後いっぱい遊んで、暗くなる前に帰宅した。

「ただいまー!」

中からの返事はなかった。

鍵は開いていたから、華野さんはいるはずなのに、返事がなかった。

そのことを不思議に思いながらリビングに入ると、華野さんがソファで放心したように座っていた。

手には携帯を握っている。

状況から察するに、夕飯の支度の途中で電話がかかってきて、それからそこにいるようだ。

キッチンでは鍋がカタカタと音を立てていた。

「華野さん、ただいま。どうしたの?」

俺が声をかけて初めて、帰ってきたことに気づいたようだ。

「……あ、朝陽。おかえり。」

青白い顔で、いつも通りの笑顔を作って、華野さんは言った。

「夕飯、すぐに作っちゃうから、手洗って待っててね。」

「……わかった。」

その様子に疑問を覚えたが、それを聞くことはしなかった。

聞いてもロクなことじゃないと思ったから。

事実として、聞きたいことじゃなかった。

洗面所で手を洗って、リビングに戻った頃には、華野さんの様子はいつもと全く変わらなかった。

顔色も悪くないし、表情も明るい。

まるでさっきの様子が嘘のようだった。

「朝陽、今日の夕飯はカレーよ!甘口にしてあるから、朝陽でもヨユーでしょ?」

だから俺も、何も気づかなかったふりをした。

あいにく、この2年ほどで、自分に嘘をつくことには慣れてしまったから。

「甘口じゃなくてもヨユーだもん。もうカラミーチョだって食べれるし!」

「そっかそっか!」

「いつも通り」がそこにあった。

でも全然「いつも通り」じゃなかった。

「お風呂溜まってるから、入ってきちゃいな。」

「はーい!」

鍋をかき混ぜている華野さんに言われて、風呂場へ向かう。

湯船に手をつけて、すぐに引っ込めた。

「冷たっ!」

水だった。

仕方なくシャワーを浴びるだけにして、リビングに戻る。

すでに夕飯の支度は終わっていて、華野さんはテレビをつけていた。

俺は何も言わなかった。