俺――蒼木凪季が運命の女の子に会ったのは学校の帰りだった。

 いつもなら車で生徒会のメンバーと一緒に帰るのだが、その時はあえて一人で徒歩で帰ってみることにした。

 なぜかというと、その時ちょうど自分の誘拐計画が練られているという話を耳にしていたからだ。

 正直なところ、俺は幼いころから空手や柔道、合気道などありとあらゆる武術を叩きこまれている。

 相手が大人の男でも負ける気はしない。

 俺はあえて抵抗せずに誘拐されて、自分を狙う犯人を特定してやろうともくろんでいた。

 ……今のところ怪しいやつはいないな。

 一人で学校わきを流れる用水路の横を通る。

 この町には中央に大きな川が一つと、そこにつながる小さな川がいくつも流れている。

 この用水路は、そうした小さな川から農業用の水を引くためのものだ。

 とはいっても最近は農地も減り、使われなくなった土地を蒼木グループが買い取ってビルや商業地にしているのだが――。

 この用水路は誰が使っているのだろう。

 そんなことをぼんやりと考えていると、急にゴボゴボと水がわき上がってくるような音が聞こえてきた。

 ――何だ?

 俺が用水路をのぞきこむと、そこには黒いブキミな手が何本もウヨウヨとわき出ていた。

 実は俺には小さいころからちょっとした霊感がある。

 心霊スポットに行くと嫌な気配を感じたり、黒いモヤや白いオーブのようなものを見ることは何度かあった。

 だがここまではっきり異形の存在が見えたのは初めてのことだった。