蒼木先輩を助けた私は、大急ぎで家へと帰った。

「ただいまーっ」

 「仁科いなり店」と書かれた紺色ののれんをくぐる。

 実はここ、私の家。

 一階がいなり寿司やおにぎりを売るお店で、二階が私たち家族が住むスペース。

 神社はこの裏手にあって、裏口からすぐに行けるようになってるんだ。

「おかえり、朱里。遅かったね」

 厨房からおにぎりを握りながら男の人が顔を出す。

 この人はお父さん。とっても料理上手で優しいんだ。

「うん、今日は美化委員の仕事が急に入ったから」

 それに、変な黒い手とも戦ったし……。

 私は紺のエプロンに着替えながら答える。

「そうなの。大丈夫よ、今日はお客さんが少ないから」

 お母さんがテーブルを拭きながら答える。

「そう、良かった」

 ここ仁科いなり店は、昔はただお稲荷さんやおにぎりを売るお店だった。

 だけど、お父さんが中にイートインスペースを作って、お母さんが作ったお味噌汁や日替わりのおかずを出しはじめて、今はちょっとした食堂みたいになってるんだ。

 学校から帰ってきたらこのお店のお手伝いをするのが私の日課。

「あら? そういえば朱里、メガネはどうしたの?」

 お母さんに指摘され、ギクリと心臓が鳴る。

「あ、あるよ、ここに」

 私は慌ててポケットからメガネを取り出した。