〇朝の高校(桜の木 ハラハラ舞う桜の花びら)
  天馬がオーストラリアに留学した一年後の莉恋の高校の卒業式

  卒業式と書かれた看板が設置された校門の前 
  写真を撮る、笑顔の莉恋ママと莉恋


〇莉恋の教室(卒業式の直前)
  莉恋の周りに、花束を持った生徒会の一年の男子生徒三人が群がる

 一年男子「雪河先輩、卒業おめでとうございます!」
 莉恋「ありがとう。」
   
  花束を受け取り微笑む莉恋
  花束を渡した男子が、周りに促されて意を決したように話す

 一年男子「俺、雪河先輩のことが好きでした! 良かったらつき合ってください‼」 
 莉恋「えっ、私? あの・・。」
 謎の声「それは無理だな!」

  莉恋の背後から言葉を遮るように瑞月の声が聞こえる
  私服姿の瑞月と茉生が、腕を組んで教室の入り口前に立っている

 瑞月「なぜなら雪河クンにはすでに彼氏が居る。そして、その雨内と別れたあとの空席を埋めるのは、この僕だからだッ!!」
 
 顔が引きつる一年男子
 瑞月の横に居た茉生が瑞月の頭にチョップする

 茉生「ストーカーの鬼妄想? マジでヤバいんですけどー!」
 瑞月「君だけには言われたくないわーッ!」
 莉恋「先輩⁉ 茉生⁉」

  一年男子に頭を下げて、二人に駆け寄り喜ぶ莉恋

 莉恋「もしかして二人とも・・・つき合ってるの?」

  莉恋の言葉にパッと距離を取る瑞月と茉生
 
 瑞月「誤解しないでくれ。僕はこの学校のOBとして、式を見学に来ただけなんだ。」
 茉生「こっちこそムリだから。ウチは莉恋が答辞読むって聞いて見に来たの。」
 瑞月「失礼な。僕はバカ女とでもつき合える包容力は持ち合わせているぞ。」
 茉生「聞いた? 毎日上から目線で話されたら、百年の恋も醒めるよ。」
 瑞月「毎日、僕にどうでもいいことで電話してくるくせに。」
 茉生「感謝しなさいよ。こんなイイ女の声を毎日聞けるなんて。」

  夫婦漫才のように言葉の掛け合いをする瑞月と茉生

 莉恋(この二人、ディスり合ってるというより、イチャついてるのだが!)

 莉恋「私にはお似合いに見えるけどね・・・とにかく、二人ともありがとう!」
   
  羨ましく瑞月と茉生のやりとりを見つめる莉恋。

 莉恋(好きな人が近くに居るのってい羨ましい。やっぱり4年は長いな・・・。)

  茉生と瑞月が意味ありげに目を合わせて含み笑いをする



〇高校の体育館
  全校生徒の前 卒業生代表として莉恋が答辞を読む

 莉恋「厳しかった冬を越え、柔らかな緑が芽吹き始めたこの学舎から、私たちは旅立ちの日を迎えました。」

  緊張しながらも、笑顔で答辞を読み進める莉恋

 莉恋「時が過ぎそれぞれが大人になって、心に隙間風が吹い時、私たちは思い出すでしょう。あの日、あの時、熱い思いを語り合った大切な仲間たちのことを。」

  天馬との日々がフラッシュバックして、言葉に詰まる莉恋

 莉恋(ヤバイ・・・頭まっしろ。)

  固まる莉恋の様子に、ざわざわする生徒たち
  目の前がチカチカする莉恋

  その時、観客席から一人の男子が軽快に体育館のステージに上ってくる
  視界が狭くなっている莉恋の隣に立つと、突然マイクを奪う

 天馬「俺も忘れません。あの日、あの時、あの場所で出会ったからこそ、俺と莉恋の運命がひとつに繋がったことを。」

  どよめく会場
  瑞月と茉生が口笛ではやす

 瑞月&茉生「いいぞー! やれやれッ‼」
 莉恋「天馬・・・どうしてッ⁉」

  驚く莉恋(マイクで声は会場全体に響いている)

 天馬「ゴメン、やっぱり帰って来ちゃった。」
 莉恋「そんなのダメじゃない! 隼人さんに何て言うの?」
 天馬「莉恋を待たせられなかったって言うよ。」
 莉恋「・・・。」

  言葉を失う莉恋
  急に腹を抱えて笑う天馬

 天馬「ウソウソ! 信じちゃうの、カワイイかよ。ただの一時帰国だって。ちゃんと隼おじには報告済みだし。」
 莉恋「あーもう、ビックリした!」
 天馬「それより、答辞どうするの?」
 莉恋「あ・・・。」
  
  ようやく現実に返り、青ざめる莉恋
  全校生徒を振り返って、真剣な顏でマイクに顔を寄せる天馬

 天馬「アッアー、マイクテストOK? いいっスか?
 改めましてチース! 元・ここの学生やってた雨内でーす。
 莉恋の代わりに、答辞の続きを喋りたいと思いまーす。」
 教師「雨内、降りなさーい‼」

  天馬を止めるためにステージに上がろうとする教師を、身体張って食い止める瑞月 
  それを見て笑っている茉生

 天馬「俺はずっと、幼なじみの莉恋のことが好きでした。」

  その瞬間、悲鳴にも似た歓声や、笑い声が会場のあちらこちらで聞こえる

 天馬「でも、告白はしなかった。人生の主役は自分じゃないと思っていたから。俺は一度、諦めたんです。
 無理して告って気まずくなるくらいなら、嫌われても彼女の近くに居るのが幸せだと本気で思ってました。」

  静まり返る会場
 
 天馬「だけど、それは自分勝手な思い込みでした。勇気を持って踏み出せば、必ず主役になれる日が来ます! 」

  パラパラと数人の拍手が起こる

 天馬「俺がみなさんに贈りたい言葉はただひとつ、ムダに恋せよボーイズ&ガールズ‼ 以上、元・生徒の雨内天馬でしたーーー!」

  一瞬の沈黙のあと、割れんばかりの拍手喝采
  瑞月の手を振りきった複数人の先生たちが、ステージ上にドヤドヤと乗り込んでくる

 天馬「逃げるぞ!」

  天馬が莉恋の手を取り、ステージから走り去る
  また全校生徒から拍手が巻き起こる


〇音楽室

  誰も居ない音楽室に入る莉恋と天馬
  全力疾走で息が切れている
 
 天馬「ハァハァ、やっちまったな・・・。」
 莉恋「助けてくれてありがとう。でも、恥ずかしかった!」
 天馬「俺の方が恥ずかしかった!」
 
  頬に両手を当ててカワイイポーズを取る天馬
  笑顔全開の莉恋
 
 莉恋「可笑しい・・・帰ったら、ママや友だちに冷やかされそうだよ。」
 天馬「じゃあ、ほとぼりが冷めるまで一緒にここに居よう。」

  改めて天馬を上から下までジッと見る莉恋

 天馬「なに?」
 莉恋「背、伸びた?」
 天馬「7センチ伸びた。」
 莉恋「そんなにッ?」
  
 莉恋(天馬が成長して、大人びてる!)

  急に大人びた天馬を眩しそうに見つめる莉恋

 莉恋「オーストラリアはどう?」
 天馬「ほとんど英語の授業ばっかりだけど、週2でプロのコーチのサーフィンレッスンがあるのが楽しみ。あと、週末はステイ先のブラウンさんがジムに連れて行ってくれるから、背だけじゃなくて筋肉もついたかな。」
 莉恋「忙しそうだね。」
 天馬「うん。莉恋はどう?」
 莉恋「ええっと私が志望大学に合格したのはメールしたよね。あとは特にない・・・カナ。」

 莉恋(ウッ、どうしよう。久しぶりすぎて、何話せばいいかわかんないよ!)

  モジモジして目を泳がせる莉恋
  その時、廊下で複数人の生徒たちの笑い声が響く
 
 天馬「ヤバイ、隠れて。」
 莉恋「え?」
 
  天馬に促されるまま、ピアノの下に入って隠れる莉恋と天馬
  至近距離で目が合うと、いたずらな目で引きつる莉恋の頬を突く天馬

 天馬「懐かしいね。莉恋にキスの練習につき合わされてたのが、ついこの間みたいだ。」
 莉恋「まだその話する?」
 天馬「ねぇ、昔みたいにキスの練習・・・する?」

 冗談混じりに目を閉じて唇を突きだす天馬
 莉恋がふくれて、手のひらで天馬の顔を押しのける

 莉恋「いい加減にしてよ」
 天馬「しない。本気だから。」
 莉恋「・・・じゃあ、天馬からして。」
 天馬「いいよ。目ぇ閉じて。」

  ドキドキしながら目を閉じる莉恋
  目を閉じた莉恋の頬にキスをする天馬

 莉恋「ほっぺなの・・・?」
 天馬「ココはね、4年後。
 またこの教室で会う時まで、とっておこう!」

  天馬が照れながら莉恋の唇に指を当てる
  そっとその指を両手で押さえて小指を引き出す莉恋
  自身の指を絡める

 莉恋「約束して。」
 天馬「約束する。」

  微笑みを浮かべて指切りげんまんをする二人
  音楽教室の開け放たれた窓から春風とともに桜の花びらが舞い込む
   

〈終〉