〇港区 茉生の家の外観(タワマン)


〇広い円形のエントランスホール(フロントにコンシェルジュが駐在)
  茉生と瑞月が通ると微笑んで会釈する


〇茉生の家の玄関(バリアフリー・大理石の床)

  玄関でスマホをいじっている瑞月
  眉をしかめる茉生

 茉生「メールでも来たの?」
 瑞月「いや、おうちの方にご挨拶をせねばと思い、ネットで定型文を調べていたのだ。」
 茉生「あー、ダイジョブ。マオはひとりっ子だし、パパもママも会社経営で居ないよ。」
 瑞月「だから雨内に粘着するのか。」

  瑞月に詰め寄る茉生

 茉生「勘違いしないでね、ウチらは今回限りのバディなの!」
 瑞月「胸に刻んでおこう。」

  緊張した面持ちで、持っていたスマホを胸ポケットに仕舞う瑞月

 茉生「それよりいい? これからマオの部屋で見ることは、墓場にまで持って行ってよ!」

  部屋の扉を、勢いよく開く茉生


〇茉生の部屋(写真の部屋)
  眺望の良い部屋の壁の一面に、引き延ばされた天馬の写真 
  山積みにされた抱き枕やぬいぐるみ、盗撮したスナップ写真も壁にスキマ無く貼られていて、見渡す限りの天馬グッズで埋めつくされている

 瑞月「な・なんじゃこりゃーーー!」
 茉生「スゴイでしょ。マオ・オリジナルの天馬部屋でーす♡」
 瑞月「うぉぉ、 B級ホラーなみのエグさに鳥肌モノなのだが‼」

  唖然とする瑞月
  スマホのSNS画面を見せる茉生

 茉生「マオはね、天馬に10年以上片思い中なんだけど、エンスタには恋人を匂わせた投稿をしてるんだ。」
 瑞月「ほほう、ピュアな片思いも10年を経ると、立派な粘着ストーカーを形成するのか。」
 茉生「てゆうかこれを見たからには、ミヅキも共犯になってもらうよ。」

  負のオーラを放つ茉生
  閉じられたドアの扉に、背中をこすりつける瑞月


〇茉生の部屋(広いウォークイン・クローゼットと撮影スタジオが写真部屋の隣の部屋にある)
  天馬のようなアクセサリーやウイッグを身につけさせられる瑞月
  一眼レフカメラを三脚に用意する茉生 
  レフ版を用意したり、本格的に撮影をする
  色んなポーズをさせられ、うんざり顔の瑞月

 瑞月「生徒会長兼・風紀委員のこの僕に、こんな不埒な格好をさせるなんて!」
 茉生「標準装備よりは爆イケだと思うー。ハイ撮るよ。」
  
  パチパチと連続のシャッター音

 茉生「いいよ! 次はちょっとだけ横向いて、えっちぃキス顏ちょーだい。」
 瑞月「できるか!」

  撮影が終了 パソコンで写真の加工をする瑞月

 茉生「ん-、ココはこーして加工して・・・。」
 瑞月「ヒィィ! 僕の美しい顔が、雨内に!」

  エンターキーを押すと、プレビューがパソコン画面いっぱいに表示される。

 茉生「ジャーン♡」
 
  天馬が茉生にキスをしているような写真

 瑞月「これをどうする気だ?」
 茉生「マオのSNSに投稿するの。天馬はフタマタかけてるって騒いで炎上させてー。」

  闇堕ちモードで笑う茉生

 茉生「莉恋の心をへし折っちゃうつもり!」
 瑞月「君は・・・。」
 茉生「あと、もういっこだけ、お願い。」
  
  突然、スルリと上着を脱ぎ、タンクトップ姿になる茉生
 
  赤くなって目を覆う瑞月
  平然と背中を向けて座り、上目遣いに瑞月を見る茉生

 茉生「殴ってくれない? 青あざができるくらい。」
 瑞月「何・・・だと?」
 茉生「天馬が、フタマタな上にDVヤローだって捏造しちゃえば、しばらくは悪い虫がつかないと思う♪」

  壊れた顔で計画を語る茉生
  完全に引いている瑞月

 瑞月「なぜそこまでする? 」
 茉生「だって・・・だっておかしいじゃん?」
 
  茉生の表情が急転する

 茉生「莉恋だけじゃないのに。ウチも、天馬の幼なじみだったのに‼」

  発狂する茉生 
  天馬の写真を床にぶちまける

 茉生「天馬が莉恋のこと好きだって知って、ウチは必死に莉恋のトレースをしたよ。それなのに、一回も天馬に恋愛対象として見てもらえなかった・・・。報われない、こんな世界はいらない。天馬も莉恋も、みんな壊してやる‼」

  足もとに散らばった天馬と茉生のツーショット写真を拾い上げる瑞月

 瑞月「これは雪河クンの受け売りなのだが―――『人を傷つけるより彩り豊かな経験をして、傷つく人の方が魅力的』なんだそうだ。」
 茉生「説教?やめてよウザいから。」

  怒りの火を瞳に宿して瑞月をにらむ茉生
  
 瑞月「正直、あの時の雪河クンの言葉は、僕の心には刺さらなかった。」

  写真をピンと宙に弾いて、語り続ける瑞月

 瑞月「だが、君という人間を知った今なら、それが理解できそうな気がする。君は、色んな経験をして傷ついてきたんだろうね。」
 茉生「アンタに何が分かるのよ?」
 瑞月「僕が思うに、君はかなりの構ってちゃんだ。でも、本人の気持ちひとつで修正は可能だと思う。他人を陥れることに使う時間があるなら、自分が幸せになるために頭を使うほうが建設的だ。」
 茉生「・・・。」

  正論で指摘をされて、押し黙る茉生
  瑞月が気づいたように「ポン」と手を叩く

 瑞月「君は・・・黙っていれば、意外に可愛いな。」
 茉生「ハァッ?・・・ 口説いてるつもり⁇」
 瑞月「失礼。それはない。」
 茉生「もう、なんなん? 調子狂うんですけど。」

  茉生と瑞月の目が合い、お互いに苦笑い
   
 茉生「あー、自己嫌悪やんなる。サイテー。」

  目にあふれた涙を拭う瑞月
 
 瑞月「僕はこれで失礼するよ。君はきちんと、雪河クンに想いをぶつけるべきだと思う。」
 茉生「話せるワケないじゃん。ウチ、アカウントブロックされてるし。」
 瑞月「それなら、安心したまえ。」

  スマホの時計を確認する瑞月

 瑞月「あと1分で世界は変わる。」


〇茉生の家のインターホンが鳴り、室内スピーカーにコンシェルジュの声が響く

 コンシェルジュの声「茉生さんに来客です。玄関までお通ししますか?」
 茉生「まさかでしょ!?」

 茉生が慌ててインターホンまで走る カメラの画面を覗くと、莉恋と天馬が映っている。
 顏が引きつり、その場に崩れ落ちる茉生

 瑞月「この家の玄関に入った時に連絡しておいたんだ。今から30分後にこのマンションのフロントに来てほしいと。」
 茉生「最初から・・・マオを裏切る気だったの⁉」
 瑞月「ウマい話には裏がある。人は疑えというのがわが家の家訓だ。」
 茉生「アンタ、顏を良いけど女にモテないでしょ。」

  驚く瑞月

 瑞月「よく分かったな。」