〇砂浜
  一瞬の沈黙
  隼人の言葉に顔がひきつる莉恋
  
 莉恋「天馬が私を好きだった?」

  自嘲ぎみに笑う莉恋

 莉恋「それは・・・ないです。」


〇(回想)闇堕ち顏の天馬が脳裏に浮かび、言葉がこだまする

 天馬「ぜんぶ、お前のせいだよ、バーカ・・・!」

(※回想終わり)


〇砂浜

 莉恋(隼人さまは、私たちの捻じれた関係を知らないから・・・。)

  下唇を噛みしめてうつむく莉恋
 
 隼人「そうかな?」

  潮風に揺れる隼人の髪
  莉恋は手に残るジャリついた灰色の砂粒を弄ぶ  

 莉恋「器用で人気者の天馬に私なんか・・・。」
 隼人「俺は莉恋ちゃんのことは良く知らないけどー、天馬のことは近くで見てきたから分かるよ。
 今から話すこと、天馬には秘密にしてほしいけど、約束できる?」

  頷く莉恋 
  手に持っていた電子タバコをひと息吸う隼人 
  深い吐息を吐きながら、天馬の過去を語り出す

 隼人「俺の妹が天馬の母親なんだけど、体が弱くてね。天馬の父親と離婚した後に入退院を繰り返すようになった。
 その時はとても子どもを育てられるような状態じゃなくて、幼い天馬は親戚の間をたらいまわしにされていたんだ。」

 莉恋「そんなの、天馬から聞いたことなかった・・・。」
 隼人「ここだけの話だからね。」
  
  唇の前に人差し指を立てて目配せする隼人

 隼人「だから、天馬はいつも大人の顔色ばかり見る、素直なイイ子を演じるクセがついちまったんだな。俺から見ても、切なくなるくらいにね。」

 莉恋(私が知らない時代の天馬・・・そんなことがあったんだ。)
  自分のことのように胸が苦しくなる莉恋

 隼人「でもある日とつぜん、天馬は撮影所に来て俺に頭を下げたんだ。『ピアノ教室に通いたい』って。アイツが自己主張してきたのはそれが初めてでさ、俺は不思議に思ったんだ。そしたらさ・・・『好きな子ができたから』って言ったんだぜ。なんか俺、それにグッときて、すぐにその教室に入会させてやったんだよ。」

  不意に声を途切れさせて目を見開く隼人
  つられた莉恋も沖を見る
  沖の天馬が崩れる波にのまれる寸前、一回転のエアリアルを決める

 莉恋「天馬、いま飛んだッ⁉ え、あれ、ヤバくないですかッ⁉」
 隼人「おー、頑張った頑張った。恋の力は偉大だねぃ。」

  手に持つタバコを口に咥えて、嬉しそうに目を細めてパチパチと手を叩く隼人

 隼人「とにかく、アイツは器用じゃない。不器用な星のもとに産まれたアヒルの子なの。
 だから、アイツと素直に笑って一緒に居てくれる莉恋ちゃんは、俺の目には女神さまに見えちゃうのよ。」

  アツく持論を語る隼人 
  莉恋の心は、複雑に揺れ動く

 莉恋(私は・・・。)


〇砂浜
  興奮気味に、天馬が海から走って戻ってくる

 天馬「隼オジ、見てた⁉ 初めてできちゃった! エアリアル‼」
 隼人「つーか、ぜんぜんジャンプ低すぎるし、半回転で崩れた波にのまれてたから、ナシだな。」
 天馬「ンでだよ!」

  頬を膨らませて莉恋を見る天馬

 天馬「莉恋は見てた?」
 莉恋「ん・スッゴく、カッコ良かった・・・!」
 天馬「え・・・マジ?」
 莉恋「うん!」

  はにかんだように笑う莉恋
  沖の方に向き直り、目を閉じて小さくガッツポーズをする天馬

 天馬「ッシ‼」
 

〇夕焼けの砂浜
  夕方になり、海から引きあげた莉恋たち
  隼人のサーフィン仲間たちと砂浜でBBQを楽しむ
  笑顔で肉を頬張る莉恋と天馬


〇砂浜・夜が更けていく
  闇にランタンの光
  ポータブルスピーカーから大音量の音楽 
  砂浜の流木を使った薪は青い炎を上げている
  大人たちは音楽に酔いしれ、酒を飲んで酔っぱらっている
(天馬・水着の上にスウェット 莉恋・水着の上にパーカーワンピース)

  天馬が莉恋の肩を叩き、大人の輪の中から連れ出す

 天馬「見せたいものがあるって言ってたの、覚えてる?」
 莉恋「今から?」
 天馬「 行こう。」

  差し出された手を、照れながらも繋ぐ莉恋
  手を繋いだたまま、大きなリュックを背負った天馬は莉恋を岩場まで連れて行く

  持っていたランタンを岩場に置く天馬 リュックからシュノーケリングの道具を出す
  ライフジャケットとシュノーケルのついたゴーグルとフィンを莉恋に手渡す

 莉恋「シュノーケル?こんな暗い 夜の海に飛びこんで、何が見えるの?」
 天馬「フフフ、さあ罪人め。懺悔の時間だ。」

  わざと悪い顔をする天馬
  後ずさりする莉恋

 莉恋「いやっ、サスペンス劇場だけは勘弁して!」 
 天馬「誰が崖から突き落とすか。ついてきたら分かるよ。」
 莉恋「ケチ。ヒントは?」

  天馬きどって天を指さし、胸に手をあててかしこまる

 天馬「星空を、君に捧げよう。」


〇夜の海中
  天馬を追って真っ暗な岩場付近を潜る莉恋
  振り向いた天馬が莉恋の前の海水を両手で掻いた途端、目が醒めるように発光するウミホタルに包まれ、目がキラキラする莉恋 
  それを柔かい表情で見守る天馬


〇夜の砂浜
  タオルを頭に巻いて砂浜に戻った莉恋は、天馬に素直に感謝を伝える
 
 莉恋「すっごいキレイだったね! 星に包まれたみたいだった! こんなの初めて!」
  
  興奮してはしゃぐ莉恋
  濡れた髪をタオルで拭きながら、満足そうな顔の天馬

 天馬「誕生日プレゼント。ちょっと早いけど、間に合ったね。」

  驚く莉恋に、天馬が手首の時計を見せる
  日が変わる5分前

 莉恋「あ・・・嬉しい、ありがとう!」
 天馬「俺が世界でいちばん早く、莉恋にプレゼントを渡したかったんだ。」

  落ちそうなほどの満点の星の下、一緒に空を見上げる莉恋と天馬
  不意に天馬が立ちあがる

 天馬「莉恋、今までありがとうな。」
 莉恋「え?」
 天馬「恋人ごっこは、もうやめよう。」