色恋沙汰はどこまでも

 コイツは真面目なやつだ。俺みてぇな男じゃねえ……才能があっておやっさんに雇われてんだ。コイツを失うわけにいかんわな、めんっどくせえけど。

 完全に見誤った、驕ってた、ただそれだけのことだ。

 「鈍っちまってんな、こりゃどーも」
 「ハッ!死にかけてるやつがよく言うぜ」

 相手が多すぎる、中にも外にもうじゃうじゃとな。ま、アイツが助かったんならそれでいーだろもう。俺が死んでも誰も困らん、どーだっていい。

 「ハッ、なんでこんな時浮かんでくんのがあのガキなんだよ」
 「あ?なに言ってんだゴチャゴチャと」

 その時──。

 「ネイルチップ飛んでったわ、マジ最悪」
 「おおー、ド派手にやれてんな!」
 「ちょっとちょっと龍ちゃ~ん、だらしないわねアンタ!しっかりしな!」

 ガキとおやっさんと明らかに晩飯の準備中であっただろう姐さんが来て、俺の目はすぐその腕の傷を見つけた。ドクンドクンと脈打つ鼓動と抑えきれない殺意にもう動かなかったはずの体は勝手に動いてた。

 「──!!龍!龍もうやめて!!」

 その声で我に返ると、皆殺しとはまさにこの事状態になっていた。

 「あんた馬鹿じゃないの!?」

 「凛子」

 「へ?」

 『凛子』なんて一度も呼んだことねえ。そう呼ばれて間抜けヅラしてるコイツの表情もはじめて見るもんだった。そしてなにより、俺はコイツの体に傷をつけてしまった──。

 「凛子さん、すんません」

 「は?いや、マジでどうしたの龍。頭でも打った?まあ、打ってるだろうけど」