色恋沙汰はどこまでも

 「んんん(離せ)!!」

 「こらこら、お静かに」

 なにが嬉しくてこんな変態に抱きしめられて口塞がれてなきゃいけないわけ?抵抗しようにも馬鹿力すぎるし、ほんっと腹立つわ。あとで容赦なくブッ飛ばす。こいつなら何しても死なないでしょ。

 うん、そうしようブッ飛ばそう。そう誓った瞬間だった──。

 「てめぇら言うことなんざ信用できねぇんだよ!!!!」

 この声、菊池桃花だ。

 チラッと日髙を見上げてみると、少し頷いて私の口から手を離し、人差し指を立てて自身の唇に当てていた。ようは『静かに』っていう合図。言われなくても黙っとくし、あんたに指図されたくないわって意味や諸々の恨みも兼ねて、顎めがけてアッパーをお見舞いしてやった……はずなのに、パンッと控えめな音と共に阻止されてしまった。しかも満面の笑みで、挙げ句ウインクされる始末。

 「ちっ」

 思わず舌打ちをすると、可愛い可愛いと言わんばかりに私の頭を撫でて『ちゅーしちゃうぞ~』みたいな変態顔(タコ唇)をしながら顔を接近させてきた日髙の頬に全ての怒りを込めて、思いっきり殴った。

 私に殴られてクルクル回転しながらペチャッと地面に溶けた変態を横目に『立ち聞きとか趣味悪いな』……とか思いつつも、菊池桃花の声に耳を澄ませる。

 「その様子では『擬人化文房具に恨みがある』そう言っているも同然」

 「ああ、そうかもな。てめぇらのせいでクソ兄貴もクソババアもっ」