色恋沙汰はどこまでも

 駅までの道のり、白杖を持ってるっつーことは視覚障がい者なんだろうけど、そのことには一切触れずに『さっき学校抜け出して~』とか『うちの親イカれてて~』とか自分の話しかしない。一見、自己中な奴かと思うがこれは違う。視覚障がい者に自分がしてやれることもなければ無責任な発言はしたくないって、自分なりに身の程を弁えた結果だろう。

 「じゃ、私はここで」

 「あのっ、なにかお礼させてくれないかな!?」

 「そういうの要らない。私の話ばっか聞いてもらっちゃったし、そもそも私の進行方向を妨げたあいつらが単純に気に入らなかっただけだから、そんなの気にしないで」

 「そ、そっか、ありがとう。君みたいな素敵な子に出会えてよかった!」

 おうおう、今時の若ぇもんはすげーな。あんなドストレートに言えるかね?そんなセリフ。

 「どうも。じゃあね、気をつけて」

 男が見えなくなるまでしっかり見送ってる中坊に胸のザワザワが増していく。声かけちまうか?いや、変質者すぎんだろ。なんて自問自答してたら中坊がいきなり走り出して、来た道を戻り始めた。

 駅方面に用事あったっつーのは嘘っぱちだったわけか!

 「……っ、にしても足速ぇ、死ぬわ!」

 中坊を必死に追いかけてるアラサーおっさんとか絵面ヤバすぎんだろ!

 「あ、もしもし美智瑠。ごめん、ちょっと色々あって遅れる。熱は?うん、マジか高すぎでしょ。ごめん、うん。急いで行くからもうちょい待ってて。うん、じゃーね」