色恋沙汰はどこまでも

 「日髙さん、ほんっと戻って。お願いだから」

 「日髙“さん”だなんて、んもぉ~。凛子様は照れ屋さっ」

 「あーもう!戻れ!日髙!」

 「ククッ。それはそれでいい、悪くないですね。ではまた後ほど、マイハニー」

 ああ、へし折っていいかな、このシャーペン(日髙聡)。シャーペンに戻った日髙をギューッと握り締めてパッと手離すと、机の上をコロコロと転がってピタリと止まった。

 (ハァハァ、凛子様をおいて先にイっちゃうところでした))

 「……」

 えーっと、ドウイウコト?なんで日髙の声が聞こえるの?ねえ、どうして?幻聴だって思いたいのに幻聴ではないという現実を叩きつけられる。

 ((無視は酷いなぁ。僕の声聞こえてますよね?))

 ええ、そりゃもうハッキリと。

 ((やっぱ故障してんじゃないの?あんた))

 ((ハハッ、そんなわけないじゃないですか。僕はSSSですよ?他の擬人化文房具と一緒にされては困ります))

 シャーペンと会話してる私マジか。これってやっぱバグでしょ、どう考えたっておかしいもん。先生に報告しといたほうがいいよね。

 「あの、せんせ……」

 いや、待って。こんなことクラスのみんながいる前で言ったら、それこそ騒ぎになるじゃ……?『ええ!?そんなことできるんだ!すごい!』みたいなかんじになって、でも実際は日髙しかできないってことになったら、かなーり目立つのでは?そんなの嫌、絶対に嫌!めんどい!

 「どうした、羽柴」

 「いや、なんでもないです」