色恋沙汰はどこまでも

 あの時のことなんて覚えてるはずない、そんなこと当たり前だろ。無駄に期待しないって決めてたのにちょっと期待してた自分もいて。羽柴さんにとって大勢の中のひとりに過ぎないってことだな、俺は。

 よし、ライバルも多いだろうし頑張んないとな。

 「俺、新藤恭輔。よろしくね」

 「あ、うん。よろしく、新藤君」

 「実は俺、羽柴さんのことが──」

 「よーーし、出発すんぞ~」

 担任のデカイ声で俺の言葉はかき消されたけど、それでよかった。『新藤君』そう羽柴さんに呼ばれた瞬間、気持ちが高ぶって会って早々に告るとかさすがにミスでしかないしキモすぎだろ。

 不思議そうな顔をして『なんか言った?』みたいな感じで俺を見つめてくる羽柴さん。

 「いや、ごめん。なんでもない」

 すると、そっぽを向きながらスマホをいじり始めた羽柴さんに『ああ、まずったなぁ』としか思えなくて、それ以上どう絡んでいけばいいのか分からず無言で移動する羽目になってしまった──。

 馬鹿か、俺。