色恋沙汰はどこまでも

 私達は周りに負けないよう、声が掠れちゃうほどアオイ君に声援を送り続けた。そのバトンを受け継ぐのは日髙で、アンカーはトラック3周らしい。さすがの日髙でもこれは……そんな時、もうすぐアオイ君が来るっていうのにノコノコと私のほうへやってきた日髙。

 「ちょっ、日髙!戻んなさいよ!」

 「凛子様、どうします?」

 「は?」

 「僕はどうすればよろしいでしょうか」

 ニコッと微笑んで私の目線まで屈んだ日髙。このまま負けたらアオイ君が自分を責めちゃう、そんなの絶対に阻止でしょ。

 「日髙、1位獲んなきゃぶっ飛ばす」

 「ククッ、本当に優しくて可愛らしいお方ですね、凛子様は。仰せのままに」

 ポンポンと私の頭を撫でてスタートラインに立った日髙。もう1周半も差がついてる。頼むよ、日髙。あんたSSSなんでしょ?魅せてみなさいよ、その実力ってやつ……を……って……え?え?え!?

 目にも止まらぬスピードであっという間に3周してゴールした日髙にグランドがシーンと静まり返って、ドカーン!と爆発音に似た歓声が上がった。

 芸能、スポーツ、特進コースの連中に『なんで一般の女がSSSなんか』とか色々グチグチ言われてるけど、そんなのはどうだっていい。微笑みながら私のもとへ来た日髙、これは褒めてやってもいいかな。

 「ご期待に添えましたでしょうか、凛子様」

 「うん。ありがとう、日髙」

 日髙は驚いたように目を大きく見開いてクスッと笑うと、ヘニャヘニャ顔になりながら調子こいて抱きついて来ようとしたからひょいっと躱す。で、勢い余った日髙は地面に這いつくばって、そんな日髙を鼻で笑いながら見捨てる私。

 こうして接戦を制したのは私達のクラスで、怒涛の体育祭は幕を閉じた。